外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(38)坂東眞理子さんと考える「男女格差」

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男女共同参画社会は打ち出されたが改革に遅れ

   日本では1999年、男女共同参画社会基本法が制定された。これが二つめの節目だ。

   この成立にあたっても、国際社会の潮流は見逃せない。

   前に触れたように、1995年には北京で国連による第4回世界女性会議が開かれ、日本からも5千人以上が参加した。その盛り上がりを背に、総理府男女共同参画審議会は翌年、「男女共同参画ビジョン~21世紀の新たな価値の創造」という答申をまとめ、男女共同参画推進本部は新たな国内行動計画「男女共同参画2000年プラン」を作った。

   これは、「我が国は、国際的な指標で他国と比較しても女性の能力の発揮の機会が十分とはいえない状態にあり、特に公的部門での政策・方針決定過程への女性の進出が遅れている」という認識のもとに、雇用に限らず、あらゆる分野で男女が平等に参画する社会を目指すビジョンだった。このビジョンには、

   「男女共同参画社会の実現を促進するための基本的な法律について、速やかに検討すべき である」との文言があり、これが基本法の成立につながった。

   この法律は、「男女共同参画社会」について、次のように定義する。

男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会(同法第2条)。

   これまでになく包括的・網羅的なだけでなく、社会、家庭について男女双方が参画することを求める点や、国・地方団体にその実現のための責務を明確にした点で、これまでの施策の集大成だった、といえる。

   この法律に基づき、2000年から2020年まで5年ごとに、男女共同参画基本計画が作られてきた。

   これとは別に、2012年に発足した第2次安倍晋三内閣は、少子高齢化社会に向かう日本において、女性を「わが国最大の潜在力」と位置づけ、その活躍を成長戦略の中核に据えた。これがのちに「女性が輝く社会」という看板で知られるようになった一連の政策だ。

   2013年の「日本再興戦略」では、「女性の活躍促進や仕事と子育てなどの両立支援に取り組む企業に対するインセンティブの付与」、「女性のライフステージに応じた支援」、「男女が共に仕事と子育て・生活などを両立できる環境の整備」という3つの柱を打ち出した。待機児童解消のための保育所などの整備や保育士確保、育児休業給付の拡充などを盛り込んだ。

   翌年の「『日本再興戦略』改訂2014」では、「育児・家事支援環境の拡充」、「企業などおける女性の登用を促進するための環境整備」、「働き方に中立的な税・社会保障などへの見直し」の3本柱を掲げた。

   安倍政権はこの年、全閣僚を構成員とする「すべての女性が輝く社会づくり本部」を設け、翌年には、早急に行うべき「政策パッケージ」をまとめた。

   だが、2016年2月に「保育園落ちた日本死ね」という匿名ブログが待機児童をもつ親の間で大きな反響を呼んだように、女性の労働をめぐる環境改善は遅々として進まず、コロナ禍が広がってからは、さらに悪化している。

   男女平等に向けたその後の改革の遅れは2020年12月に発表された第5次男女共同参画計画にも明らかだ。

   今回の計画では、03年から掲げ、前回計画でも維持してきた「2020年までに指導的地位の女性30%を目指す」という「202030」目標を断念し、目標達成を「20年代の可能な限り早期に」と先送りした。このままでは、「2030年までに50%を目指す」という国際水準とは、さらに差が大きくなりそうだ。

   また、女性差別撤廃条約の「選択議定書」については、今回も明確な指針が示されなかった。「議定書」では条約が保障する権利が侵害され、裁判などの国内救済手続きでも救われなかった際に、個人・団体が国連の委員会に直接救済を申し立てられる「個人通報制度」を定める。条約の実効性を高め、国内の権利侵害を国際標準で審査することに門戸を開く。選択議定書は99年に国連で採択され、世界114カ国が批准しているが、日本は20年以上経っても「検討」を続けたままだ。

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