3.11で黙祷をしなかった女性が信じられない――。
2021年4月22日の読売新聞朝刊、有識者が読者の悩みに答える「人生案内」の欄に寄せられた投稿者の声だ。
この相談に乗ったのは、ノンフィクションライターの最相(さいしょう)葉月氏。投稿者の心理を鋭く指摘した回答に、ツイッター上では「カミナリに打たれた気持ち」「色々考えさせられる」と反響が相次いだ。
男性が気になっていた「デリカシーの無さ」
話題になっているのは、愛知県在住・60代の男性公務員が投稿した「同僚の態度が信じられない」という投書だ。
投書から1年前、20年3月11日14時46分、職場で東日本大震災の「黙とう」を呼びかけられ、黙とうをしていた投稿者。しかし、職場にいた1人の女性が「思い出したくない」という理由で、黙とうをせず部屋から出たという。
投稿者は女性の行為について、震災で亡くなった人や遺族に「大変失礼だ」と意見。投稿者いわく、女性に対しては以前から「デリカシーのなさ」が気になっていたものの「適当にあしらってきた」という。ただ、この黙とうの件は「受け入れられない」として、これから女性とどう付き合っていくべきなのか、アドバイスを求めた。
これに答えたのが、最相氏。音を聞いただけで音名がわかる「絶対音感」の秘密に迫り、ベストセラーにもなった書籍『絶対音感』(小学館、98年)の著者としても知られる。
最相氏はまず、聖書のエピソードを引用。イエスが弟子に「祈り方」を教える際に「奥まった部屋」で戸を閉めて祈るよう説いた、というものだ。これは新約聖書「マタイによる福音書」の6章6節に綴られている内容で、最相氏はイエスが「祈り」を見せびらかすことについて苦言を呈していると解説する。
「365日、毎日誰かの命日」
最相氏は「みんなと心を合わせて祈るのは大切なこと」だとしながら、日ごろ女性に対して抱く「デリカシーのなさ」への苛立ちから、新聞に投書しようと思ったのではないか、と投稿者の心理を分析。「そんな気持ちで黙とうしていたことは、亡くなった方や遺族に対して失礼にはあたりませんか」と問いかけた。
最相氏はさらに「365日、毎日誰かの命日」「館内放送で一斉に黙とうすれば真摯なのか」「祈りは強制されるものではないと考える人がいても不思議ではない」と指摘。部屋を出た女性が祈りを捧げているかはわからないとしつつ、「他人が土足で踏み込む場所ではないことは確か」と見解を示した。
この最相氏の回答に対し、ツイッター上では「カミナリに打たれた気持ち」「強くて優しい」「スッと、言葉が入って来た」「色々考えさせられる」といった反響が相次いだ。部屋を出た女性の思いに理解を示すように「人それぞれに感情があって、その表現の仕方も人それぞれ違う」「それぞれの追悼の仕方がある」「誰にも見られたくない祈りもある」とツイートした人もいた。
また、「私もやりがちだなぁ」「叩くために理由を探してしまうことは珍しくない」と、最相氏が指摘した「投稿者の心理」を自分に当てはめて考えるユーザーも。「こういう感情自分にもあるから自戒したい」「思慮深い人間になりたいもの」と自らを省みる声もあった。