エッセイストの島田彩氏が2021年4月19日、大阪市西成区で出会ったホームレスとの交流を描いた記事をめぐり、「伝えたい気持ちと真逆の感情を生み出してしまった」と謝罪した。
記事は、大阪市が進める新今宮エリアブランド向上事業の一環で制作されていた。
私にとっては、贅沢な時間だった
島田氏は4月7日、「ティファニーで朝食を。松のやで定食を」と題した記事をコンテンツプラットフォーム「note」に投稿した。自身が新今宮で経験した人情味あふれる出来事を伝えている。
新今宮は西成区にあり、日雇い労働者が多く集まる街として知られる。近年では星野リゾートが観光ホテルの開業を予定するなど再開発が進む。
島田氏は見知らぬ住人から意図せず多くの親切を受け、「借りができた分、貸しをつくる」というルールを決めて街を散策する。そこで偶然出会ったのが、「ホームレス」の男性だった。
持っていた袋の中でジュースが漏れてしまい困っていたところ、この男性に「何してんの?大丈夫?」と声をかけられ交流が始まった。
島田氏は貸しをつくるため、食事やたばこ、銭湯代をおごり、代わりに男性には街案内を頼んだ。一連の体験は「デート」と表現され、その模様を子細に描写している。
島田氏は「ティファニーで朝食を食べるよりもずっと、私にとっては、贅沢な時間だった」と振り返り、「『ホームレスとデートって、正直どうなの?』そう思われたかもしれない。でも、私の中では、たまたま出会って、たまたまデートし、たまたま友達になった人。その人がたまたま、家を持たずに暮らしている人だった。それだけのこと」とごく普通の体験だったと強調した。
あとがきでは、次のように記している。
「この世界は、なんでも準備や計画を求められがちだけど、新今宮という街は、なりゆきでも『行けばなんとかなる街』だった。この世界は、信じられないものが多いけれど、新今宮という街は、『助け合いの街』で、そして、『信じる力が潜む街』だった」
「PR案件であるという事実が実にどうも...」
公開当初は「すごい、すごいエッセイだ」「読んでて泣けて来ました」とSNS上では絶賛する反応であふれた。しかし、次第に
「人の生活をこのように娯楽として消費してしまうのはどうなのかな」
「自治体からのPR案件であるという事実が実にどうも......」
といった指摘も目立つようになった。
また、PR表記が記事末尾にあり、広告だと気づかなかった人も少なくなかった。この点も問題視された。13日になって記事冒頭には広告である旨が追記され、大阪市が進める「新今宮エリアブランド向上事業」の施策の一環とも明かされた。
同事業は「新今宮ワンダーランド」とのコンセプトを掲げ、「来たらだいたい、なんとかなる」を合言葉に街のイメージ向上に取り組んでいる。
騒動を受けて、島田氏は19日、「行政の名前が出る記事として。PR記事として。私のいろんな配慮と知識が、もっともっと必要でした。怒りや悲しみ、嫌悪感や不信感など、伝えたい気持ちと真逆の感情を生み出してしまったこと、大変申し訳ありません」と謝罪文をnoteに投稿した。
今回の騒動について関係者で対応を協議しており、「すべての準備が整ったら、この場で改めて、お知らせさせてください」とした。
大阪市&電通の見解は
大阪市西成区役所総務課は20日、J-CASTニュースの取材に、記事制作は電通関西支社が担当し、市は関与していないと答えた。新今宮エリアブランド向上事業は同社に880万円で委託したという。
騒動については「色々な感想をお持ちの方がいらっしゃるのは把握しています」とし、市としての見解を問うと、「大阪市として記事自体に良かった、悪かったというようなコメントをする立場にはないと思っております」と明確な回答は避けた。
島田氏は関係者が対応を検討していると報告していたが、「詳細については全く把握しておりません」。関係者に市も含まれるかについても「そこも図りかねます。実際に島田さんとお話した事実はないので」と話した。
電通広報部は21日の取材に「個別具体的な内容については、守秘義務契約がありますので、大変申し訳ありませんが、回答を差し控えさせていただきたいと存じます」と答えた。一方で、「本事業については大阪市西成区と連携しながら進めておりますので、詳細は大阪市西成区にお問い合わせいただきたく、よろしくお願いいたします」とした。
同日、西成区役所に再度見解を問うと、書面で「一部言葉足らずな部分がございました」として次のように前日の回答を訂正した。
事業主体はあくまで大阪市にあり、記事制作にも一部関わった。記事については「評価は控えたい」とする。
島田氏が挙げた関係者には市も含まれているとの認識で、「本事業に関するご意見については、島田氏ではなく、事業主体である本市に頂戴したいと考えております」と呼びかけている。