震災当時もコロナ禍の今もやるべきことは同じ
「福島を応援しようとの声も、多かったんですよ」
県外や首都圏から、福島の特産物を販売する「復興イベント」に呼ばれた。初めは不安だった。
「福島ナンバーの車だと県外に行けないんじゃないか。そんな心配もありました」
ところが出店すると、客が詰め掛けた。「福島の学校に通っていました」「親が福島出身です」。佐藤さんに声をかけ、励まし、モモはじめ果物を買っていった。来店客の笑顔がうれしく、苦難を乗り越えるうえでの何よりの原動力になった。
一方で経営面では、農業生産の工程管理の手法「GAP認証」の取得に力を入れた。認められれば、食品の安全性の保証となる。各種審査をクリアし、2013~17年の間に「JGAP」「GLOBALG.A.P.」「ASIAGAP」全ての取得に成功。これをバイヤーが評価し、大手スーパーとの取引が増え、事業の回復に弾みをつけた。
業績は年々上向き、遂に震災前に追いつき、追い越した――ところが2020年、今度はコロナ禍に見舞われる。「不安定な1年でした」と佐藤さん。特に人が集まる果物狩りやカフェ営業は、感染対策に神経をとがらせ、「(対策を)取れない間はやらない」と開始時期を遅らせる一方、直売や通販に注力した。
「震災後も、やれることを地道にやってきました。スタッフはじめみんなの努力があって、ここまでこられたのです。当時も、コロナ禍の今も同じ。やらなきゃいけないことをやる。そういうことです」
取材から数時間後、佐藤さんから電話がかかってきた。「どうしても言いたいことがあって」と切り出し、こう続けた。
「福島全体は、震災前に戻ったとは言い切れません。『福島は大丈夫』と言ってくださる人は増えてきましたが、まだ心配だという声を聞くのも事実です。私は、全ての人が『福島のモノがいい』と言ってもらえるよう、福島を代表する気持ちで頑張りたい。それを、お伝えしたかった」
福島に、東北に、エールを。
(この連載おわり)
(J-CASTニュース 荻 仁)