なぜ「まん防」の略称は緊張感に欠けるのか? 心理学博士が分析する「軽さ」の正体

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   新型コロナウイルス感染防止策として大阪、兵庫、宮城の3府県に適用され、緊急事態宣言に準じた対応が可能になる「まん延防止等重点措置」だが、これを略した「まん防」という言葉をめぐって論争が広がった。共感を呼んだのは2021年4月1日に「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)で飛び出した指摘だ。新型コロナについての特集の中で、テレビ朝日解説委員の玉川徹氏は、「緊迫感に欠ける」として略す必要はないと主張したのだ。

   ツイッターを見てみると、同様に「マンボウ」という音が緊張感を奪っているという指摘があるのに加え、「うー、マンボ!」と、もはや茶化すようなツイートも出ているほどだ。そこで、J-CASTニュース編集部は経営コンサルタントで心理学博士の鈴木丈織氏に、「まん防」という言葉をめぐる「軽さ」の正体について、分析を依頼した。

  • 西村康稔大臣(つのだよしお/アフロ)
    西村康稔大臣(つのだよしお/アフロ)
  • 西村康稔大臣(つのだよしお/アフロ)

「マンボウ」という音は良くない!?

   1日の「モーニングショー」で玉川氏は、テレビをはじめとした報道で使われた「まん防」なる略称について、「『まん防』っていう言葉自体がテレビになると音しか伝わってこないから緊迫感に欠けるんです」「僕は略す必要はないと思ってる」と指摘。すると、司会の羽鳥慎一アナウンサーも、「(魚の)マンボウを思い浮かべちゃうんです。そうすると緊急事態宣言、よし何とかしなきゃっていうところに、まあ、やることは厳しいんですけど、国民の気持ちの問題が......。だから、せめて『まん延防止』(が良いと思う)」と、どうにも音が良くないと指摘したのだ。なお、玉川氏は3月30日の同番組でも、やはり、同じ理由で「まん防」という略称に疑問を呈していた。

   確かに、どうにも軽い印象が否めない「マンボウ」という音。同様の指摘は政界からも出ており、1日には西村康稔経済再生担当大臣が、「ちょっとふざけたような雰囲気もある」「『まん延防止』としっかり言うよう努めている」と強調。2日には加藤勝信官房長官が、「私は記者会見では『まん延防止等措置』、あるいは『まん延防止等重点措置』と申し上げている」と説明するなど、「まん防」はもはや避けられ始めていると言っていい状況だ。

略称が同音異義語を連想させるのは、それだけでマイナス

   国民的論争ともいえる「まん防」だが、なぜ「軽い」と感じてしまうのか。心理学博士の鈴木丈織氏は取材に対し、まず「まん防」をはじめとする「略称」というフォーマットそのものの宿命を指摘しつつ、それでも、その使用は避けられないと指摘した。

「名前とは、本来、『その名前を認識することでそのものの機能や役割が分かり、かつ、ほかのものと重複しない』ようにするためにつけられるものです。しかし、略称というのは、せっかくその機能や役割を表わす表示を改変し、かつ、音の個数を減らすわけですから、『ものの機能や役割が分かりづらくなり、かつ、他のものと重複しやすくなる』ものです」
「このことから、『まん延防止等重点措置』を『まん防』と略してしまうと、『まん延を防止するための重点的な措置』という意味は、やはり弱まってしまいます。ですので、本来ならば略称などというものは使うべきではないのですが、やはり、長い名前が略されるというのは避けられないことです」

   続いて鈴木氏は、略称を使う際の注意点を指摘しつつ、「まん延防止等重点措置」に関しては略すべきではないと指摘した。

「略称が同音異義語を連想させるというのは、その同音異義語の意味がどうしても頭に浮かんでしまうので、意味がそちらに引っ張られて非常に良くない略称となります。今回の『まん防』はそのアクセントも手伝って即座に魚の『マンボウ』を連想させ、しかも、その『マンボウ』が牧歌的な印象がある魚なので、警戒を呼び掛けなければならない状況で使う言葉としては略称としての悪条件がこれでもかと揃っており、不適切と言えるでしょう。かといって、『重点措置』では何のための重点措置か分からなくなるので、最低でも『まん延防止措置』、そして、やはりそれよりは、『まん延防止等重点措置』と略さずに使うべきです」

(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)

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