新型コロナウイルスの収束が見えない中で、北朝鮮が東京五輪に選手団を派遣しないことを決めた。通常、このような北朝鮮政府の決定は朝鮮中央通信のような国営メディアで最初に伝えられたが、今回は「朝鮮体育」なるウェブサイトが、その役割を担った。
対外的には無名ともいっていいサイトだが、北朝鮮の体育省が運営しているとみられ、北朝鮮のスポーツに関する情報を掲載しているサイトだ。
東京五輪不参加は「世界的な保健の危機から選手たちを保護するため」
北朝鮮の東京五輪不参加は、サイトに2021年4月5日付けで掲載された記事で明らかになった。3月25日にビデオ会議方式で北朝鮮のオリンピック委員会(NOC)総会が開かれたことを伝える内容で、最後の段落で東京五輪に言及した。
「朝鮮民主主義人民共和国のオリンピック委員会は、総会でコロナウイルス感染症による世界的な保健の危機から選手たちを保護するために委員の提案に基づいて、第32回オリンピック競技大会に参加しないことを討議決定した」
記事には総会の写真が掲載されており、その右下には「朝鮮中央通信」のロゴが確認できる。同通信の記者が総会を取材した可能性もあるが、4月6日時点では東京五輪の参加見送りについて報じていない。
総会の開催自体は、開催翌日の3月26日付けの労働新聞で報じられていた。ただ、今後の活動方針については
「今年の専門体育技術発展のための確固たる基盤を築いて大衆体育活動を活発に組織進行する上の実務的な問題が討議された」
とあるのみ。東京五輪への言及がなく、対応が注目されていた。
ページの一番下に電話、ファクス番号とともに「朝鮮民主主義人民共和国体育省」
これほど重要な発表を最初に掲載することなった「朝鮮体育」だが、サイトの概要を説明する「about us」にあたるページは見当たらない。ただ、各ページの一番下には電話番号、ファクス番号、メールアドレスとともに「朝鮮民主主義人民共和国体育省」とあり、北朝鮮の体育省が運営しているとみられる。
サイトは朝鮮語以外に、英語、中国語の計3か国語に対応。記事のバックナンバーの時期から判断できる限りでは、18年頃に立ち上がったサイトのようだ。トップページには19年の「10大最優秀選手」「10大最優秀監督」が目立つように配置されているほか、大きく「不滅の指導」「試合のニュース」「体育活動ニュース」「体育生活」のコーナーで構成されている。
「不滅の指導」では、金正恩総書記や父親の故・金正日総書記ら、いわゆる「白頭山血統」の動静や過去のエピソードを掲載。「試合のニュース」では卓球、柔道、ボクシング、重量挙げなど、北朝鮮選手が活躍した国際大会の結果を紹介し、「体育活動ニュース」では、19年2月に国際体操連盟(FIG)代表団が訪朝したことや、1992年のバルセロナ五輪にボクシングのフライ級で金メダルを獲得した崔鉄洙(チェ・チョルス)選手の紹介など、試合結果以外のスポーツの話題を伝えている。今回の東京五輪参加見送りの記事が載ったのも、このコーナーだ。
異色なのが最後の「体育生活」のコーナーだ。
「アイスホッケーの攻撃戦略」
「空腹時の長距離走はいいことなのか」
「運動すると血液の循環が良くなる」
といった「豆知識」に近い記事が並び、他のコーナーとは一線を画した「ソフト路線」だ。
北朝鮮では、今回注目された「朝鮮体育」以外にも、複数の官庁や大学がウェブサイトを持っている。特に外務省は、声明をウェブサイトにのみ掲載し、朝鮮中央通信では流さないこともある。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)