小学1年生の漢字テストに関し、「とめ、はね、はらい」の有無でバツをつけるという教育方針に、賛否の声があがっている。脳科学者の茂木健一郎氏も、その厳しすぎる基準に苦言を呈している。
「どうでもいいことよりも学ぶべき大切なことあるのに」
議論の発端となったのは、西日本新聞(ウェブ版)で2021年4月5日に特集された「0点は厳しすぎ?小1『とめ、はね、はらい』で× 文科省の見解は」という記事だ。記事では、「とめ、はね、はらい」が欠けていると漢字ドリルは全てやり直し、テストは0点になってしまうという厳しい指導に悩む小学1年生の子を持つ保護者の声をクローズアップしている。
学習指導要領によると、国語の漢字テストや書写の授業では「学年別漢字配当表に示す漢字の字体を標準とする」ため、「とめ、はね、はらい」が求められるが、この基準は学校により異なるという。
脳科学者の茂木健一郎氏は5日、自身のツイッターで記事を引用し、「こういうどうでもいいチマチマしたことを小さく前にならえで押し付けるから日本の教育は没落してゆく。一種の虐待だよ。そんなことより批判的思考を。教師の側にそれがない。絶望的」と述べた。
続くツイートでは、「そもそも、漢字の、『とめ、はね、はらい』の『正書法』にどれほどの歴史的、学問的根拠があるのか?たまたま今の『文科省』が『これが正解だよ』と指定したものに従うことは反知性主義。掛け算の順序と同じ、初等教育の愚劣な押し付け。それこそが教育だ、キリッと言っている人たち、少し考えたら?」、「掛け算の順序はこれじゃないと正解にしないという意味不明の愚鈍や、根拠の怪しい漢字のとめ、はらい、はねを覚えろとか教師が押し付けてくる学校だったら、いかない方がマシだと心から思う」として学校教育に感じる問題点を指摘した。
ネット上には文字は正しく美しく書くべきだとする声がある一方、子どもによって成長のスピードは異なるため、「とめ、はね、はらい」を気にするあまり子どものやる気を削ぐのではないかという意見もある。
茂木氏のツイートにもさまざまな意見が集まり、200件以上のリプライがついた。
「止めとかハネとかよりも、大事な今の時代にあった"基礎"があるように思います」
「大学試験で漢字のとめ、はね云々で減点されんだろうし、ワードで文字を書くことの多い大人にいたっては、どうでも良いのでは」
「最初の基礎は必要だと思う。正しいを知らないのは可哀想」
「小一は字を正しく書かないとそれが癖になったまま育ってしまうので小さいうちは手厚く教育を受けなければいけないと思う」
「自分の言葉で表現する、自分の言葉で書くことを教える方がよっぽど重要」
茂木氏は同日YouTubeに「漢字のとめ、はね、はらい、なんてどうでもいい」と題した動画を投稿した。
「漢字のとめ、はね、はらいもどうでもよくて、漢字とか文字というのは『パターン認識』で覚えるんです」と脳科学の見地から文字の認識について解説。茂木氏によると、脳の「パターン認識」では、特定のテンプレートに合うものであれば、とめ、はね、はらいがなくとも同一の文字として認識するという。
「もう一回言いましょうか?とめ、はね、はらいなんかどうでもいいんですよ」と強調した。茂木氏は「学習ってね、一番大事なことは思考をどんどん積み上げていって、批判的思考・クリティカルシンキングをやって、自分の興味のあることをやって、学んでいくこと」と語り、「日本語教育」の重要さについて論じた。
その中で、日本の学校教育は「読む・聞く・書く・話す」のうち、「書く・話す」の教育が欠落していると指摘。「自分の言葉で表現する、自分の言葉で書くことを教える方がよっぽど重要なんです」とした。「文字そのものに本質はなく、文字は道具である」と語る茂木氏は、「言葉を使い、たくさんの言葉を知って、使う方が大切」だと語った。
また、ディスクレシアと呼ばれる読み書きにハンディを持つ学習障害を抱える子どもも含めて教育というものがあるとし、特定の正解を押し付けるのは時代にそぐわないとした。茂木氏は子どもは自分の考えを表現する作文などを書くことで漢字を覚えるものだと語り、漢字テストそのものの是非にも触れていた。
動画のコメント欄にも、小学校特有の「とめ、はね、はらい」の採点法について悩ましいとする声が集まっている。
「息子が書字障害のため、漢字、作文の細かいお作法には泣かされて来ました」
「書き順は国語じゃなくて美術の授業の一部で書道の授業を、してみた方がオモシロクなりそう」
「そもそも字を上手い下手という分け方をするのがナンセンスだと思います...(中略)...それ以上に文の中身に着目するほうがよっぽど有意義だと思います」