首都圏で大きな議論を呼んでいない
女川原発は、女川町の財政を支えていることは事実だ。2019(令和元)年度の一般会計(歳入)は309億644万円。うち原発立地自治体に支払われる「電源三法交付金」は7億8477万円。また同町の固定資産税担当に取材すると、同年度の町の固定資産税27億2682万7985円の89.5%が「東北電力の割合」だと説明した。両方を足すと、歳入の約1割を占める。
2020年9月7日、女川町議会は、商工会、漁協、商工事業協同組合、観光協会からそれぞれ出された原発2号機早期再稼働を求める陳情4件について、賛成8、反対3でいずれも採択した。賛成票を投じた議員は、地域振興や雇用拡大、地域の産業維持といった点を理由に挙げている。
住民説明会での質問は、再稼働に向けて厳しい意見が目立った。「なぜ急ぐのか」「人の命というものを全く考えてない」と、感情的な言葉も出ていた。県道41号を走る途中、「原発反対」という看板を何度か見かけた。半面、女川原発と直接、間接的にかかわることで収入を得る住民もいる。町の経済や生活を考えれば「再稼働やむなし」との判断もあるだろう。事情は複雑だ。
2021年1月上旬、全国各地で電力不足が深刻化した。電力使用量がもう少しで100%に届きそうな地域が出て、需給バランスをとろうと電力会社間で融通し合い難を逃れた。海外からの輸入に頼る液化天然ガスの供給不足がひとつの原因とされた。
現在、各地で運転停止中の原発を再稼働させれば、こうした電力不足の不安は一掃されるはずと考える人はいるだろう。だが前出の阿部議員は、「これから人口減るのに、いったいどのくらい電力が必要なのでしょうか」と疑問を呈する。温排水や放射性廃棄物処理の問題も解決されていない。環境負荷を踏まえ、「私たちの生活様式を変えていく時が来ているのだと思います」と主張する。
原発事故から10年目の再稼働決定。首都圏では大きな議論や関心は呼んでいない。一方で2月、3月と続けて大きな地震が起き、津波も発生した。ひとたび原発事故が起きたらどうなるか、私たちは知っている。自分事として考えてみる機会にしてはどうだろうか。
(J-CASTニュース 荻 仁)