「陸路がダメなら海路、空路」と説明するが
こうした説明にも、住民の不安は消えない。2020年8月1日に女川会場で開かれた住民説明会では、「避難計画の実効性というのは、はなはだ疑問」「自主避難、屋内退避など、やってられません」と厳しい声が飛んだ。2011年の東京電力福島第一原発の事故のような事態が仮に発生すれば、計画通り冷静に動けるだろうか。
原発再稼働に反対する、阿部美紀子・女川町議会議員に取材した。2年前の台風19号で「女川の町に向かう主要道路は寸断され、17時間孤立しました」と説明する。これは住民説明会でも言及した人がいた。あちこちで道路が陥没、冠水したことを踏まえて「避難計画が計画どおりに機能するとはとても思えません」と批判したのだ。
阿部議員はもう一つ、こう指摘した。
「例えば、寄磯地区は原発事故が起きた場合、その原発に向かう道路しか逃げ道がないのです」
寄磯は女川原発の東側にある。記者は実際に現地に足を運んだ。立地上、原発と反対方向に向かうと海に出てしまうため、陸路の選択肢はいったん原発に近づく以外にない。そこからは海沿いの県道41号を進むか、途中から山側にある「コバルトライン」を通って北へ避難することになる。寄磯漁港からコバルトラインを通って女川駅まで車で走ったところ、スムーズに進んで約40分だった。女川町民は、さらにそこから車で1時間20分程度かけて、避難先に割り当てられた栗原市まで向かうことになる。
女川会場での住民説明会で内閣府担当者は、「激甚災害で道路が各方面寸断されている場合、陸路がダメなら海路、空路といった手段を取れるようにしっかりと日頃の訓練をしていくことが必要」と述べた。実際、牡鹿半島の離島住民の避難には船やヘリコプターといった手段が想定されている。
東日本大震災級の災害となれば、多くの「予想外」が発生するだろう。道路は陥没やがけ崩れ、海側の道は津波が来れば破壊や冠水で使えなくなるかもしれない。多くの道路で渋滞が起き得る。船やヘリでの救援も未知数だ。津波が押し寄せれば、そもそも船が接岸できるのか。巨大台風接近時のタイミングで原発事故となれば、空からの救援活動も難しい。ありとあらゆる「最悪のケース」をクリアしないと、住民の不安はぬぐえないだろう。