元徴用工や慰安婦問題を背景に、日韓の外相会談が1年以上行われない状態が続いている。2021年2月に就任した鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相は3月31日の記者会見で、早期の外相会談を希望する考えを示したが、両問題では日本側の譲歩を要求。実現へのハードルはきわめて高そうだ。
具体的には、慰安婦問題で日本側が「反省して心から謝罪すれば、問題の99%は解決できる」。ただ、その直前には「日本が2015年の慰安婦合意の精神に基づいて」とも発言している。慰安婦合意は事実上韓国側が反故にしたことから、その整合性を疑問視する声が韓国側からあがっており、解決すべき課題は多い。
2021年2月の就任から電話会談すら行われず
日韓の対面による外相会談は、20年2月に茂木敏充、康京和(カン・ギョンファ)両外相(いずれも当時)との間で、ドイツ・ミュンヘンで行われたのが最後。鄭氏の就任後は、電話会談すら行われない状態が続いている。
そんな中で毎日新聞が21年3月31日付けの朝刊で、茂木氏が4月下旬に訪米し、米国のブリンケン国務長官、鄭氏の3者で「ワシントンで会談する調整に入った」と報じた。米国が呼びかけたといい、その位置づけについて「日米韓外相会談が実現すれば、バイデン米政権で初めて。弾道ミサイル発射を再開した北朝鮮や米国との対立が続く中国への対応を協議する見通し」と解説している。
この報道でクローズアップされることになったのが、日韓の2か国間の外相会談の可能性だ。鄭氏は記者会見で、
「外相会談が早期に開かれることを望む。どんな形であれ、日本の外相と会う用意がある」
などと話し、関係改善に前向きな考えを示した。ただ、日本側に譲歩を求める立場は、前任の康氏と同様だ。
元徴用工の問題では、
「(日本企業に対して元徴用工らへの賠償を命じた18年の)最高裁判決があるため、これを尊重する範囲内で、現実的な案を見いだす必要がある。その現実的方策を(日本側に)提示している。日本側が積極的に応じてくれれば対話で問題を解決することができる」
などと従来通りの主張を展開した。
慰安婦合意では安倍前首相が「心からおわびと反省の気持ち」表明
慰安婦問題では、
「被害者の名誉と尊厳を回復しなければならない。日本が15年の慰安婦合意の精神に基づいて、反省して心から謝罪すれば、問題の99%は解決できる」
と主張した。
日本側に対応を求める点では従来と同じだが、異なるのが、「慰安婦合意の精神」に言及している点だ。慰安婦合意では、日本側は冒頭で次の立場を表明している。鄭氏の発言は、この部分を念頭に置いたとみられる。
「慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する」
慰安婦合意では、日本政府が元慰安婦の女性を支援する財団設立のために約10億円を拠出することを前提に、慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」 ともうたっている。日本政府はすでに10億円を拠出しており、慰安婦合意で求められている対応はすべて完了している、との立場だ。慰安婦合意では、すでに日本側が「心からおわびと反省の気持ちを表明」しており、「慰安婦合意の精神」を理由に改めて「反省して心から謝罪」を求める鄭氏側の立場との隔たりはきわめて大きい。
中央日報「日本側に合意を守れと促すことは、つじつまが合わない」
さらに、鄭氏が「慰安婦合意の精神」を持ち出したことは、韓国側の立場とも矛盾するとの指摘も出ている。中央日報は、鄭氏の発言で「議論が起こることが予想される」として、その理由を
「『被害者中心主義の欠如』を理由に(日本政府が拠出した10億円の受け皿にするために韓国政府が設立した)和解・癒やし財団を解散するなど、韓日慰安婦合意を事実上無効化したのは文在寅政府だ。そこで日本側に合意を守れと促すことは、つじつまが合わない、という指摘だ」
などと分析。さらに、慰安婦合意で首相が謝罪を表明していることから、
「さらにどのような謝罪を求めるのか、と反発の余地もある」
としている。
韓国側は李相烈(イ・サンリョル)アジア太平洋局長を東京に派遣し、4月1日には対面では5か月ぶりの局長協議を行ったが、両者は従来の立場を主張。議論は平行線だ。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)