中国市場への進出を加速させているエイベックスが、地政学的リスクに直面した。
台湾は中国の領土の一部とする「一つの中国」の原則に反する発言を同社社員がしたとして、現地子会社が謝罪する事態となっている。
きっかけは日本のインタビュー記事
「最近オンライン上で議論となっている、2018年に弊社サイトに掲載した記事は公式見解ではございません。お騒がせしてしまい心よりお詫び申し上げます。記事はすでに削除しました。今後、このような不適切なコメントは許容しません」
エイベックス中国法人は2021年3月31日、SNS「微博(ウェイボー)」で前述の声明文を掲載した。
エイベックスの幹部がインタビュー記事で「(ライブイベント「a-nation」は)出演アーティストに関してはあまりコンセプトに囚われずに、海外とのリスナーとの接点を増やすためにも韓国・台湾・中国といったアジアのアーティストも積極的にキャスティングした」と発言していたのが中国のネットユーザーの目に留まり、「一つの中国」の原則に反すると物議をかもしていた。
中国共産党機関紙・人民日報の系列紙「環球網」によれば、謝罪後も「会社としてのスタンスは?」などと指摘され、批判は収まっていないという。同紙は「一つの中国の原則を堅持することは、国際社会の普遍的なコンセンサスだ」と主張している。
この騒動を受けてか、ガールズグループ「MAMAMOO」などが所属する韓国の芸能事務所「RBW」は31日、ウェイボーなどで「当社は一つの中国の原則を支持する」と投稿したが、その後削除され、「内部で協議されていない内容により混乱させてしまい申し訳ありません」と釈明する事態も起きている。
売り出し中のアーティスト多数
エイベックスはアジア市場開拓をにらみ、中国、香港、台湾、シンガポールに現地法人を設立している。
18年には中国発の動画アプリ「TikTok(ティックトック)」と、21年には中国の大手動画配信サイト「bilibili(ビリビリ)」の運営会社とライセンス契約を結び、楽曲を提供した。19年のプレスリリースでは「拡大する中国の音楽配信市場に対して積極的に進出していく」との方針を示していた。
中国版「PRODUCE 101」(通称プデュ)として大人気のオーディション番組「創造営2021」には、エイベックスの新人グループ「INTERSECTION」や日中混合グループ「WARPs UP(ワープスアップ)」のメンバーが出演し、現地で話題を集めた。
チャイナリスクをめぐっては、日本のVTuber(バーチャルユーチューバー)事務所「カバー」が20年9月に「一つの中国」を支持する声明を出し、同様のトラブルが起きていた。その後、中国からは撤退を余儀なくされ、谷郷元昭社長は「国境を超えることは簡単なことではなく、展開する地域の方々の気持ちに配慮する必要があることを痛感しました」とSNS上で振り返っている。