新型コロナウイルス対応の改正特別措置法に基づいて営業時間の短縮命令を受けた飲食チェーン「グローバルダイニング」が東京都を相手取って104円の賠償を求める訴えを東京地裁に起こしたことを受け、長谷川耕造社長が2020年3月30日、東京・丸ノ内の日本外国特派員協会で記者会見を開いた。
都は時短を命じる理由のひとつとして、グローバル社が「緊急事態宣言に応じない旨を強く発信」したことを挙げている。さらに、時短命令対象になった27店舗のうち26店舗がグローバル社が経営する店舗で、事実上の「狙い撃ち」だった点も問題視されている。グローバル社側は、これらが「表現の自由」や「法の下の平等」といった憲法上の権利を侵害していると主張。訴訟を通じて、これらの論点を浮き彫りにしたい考えだ。訴訟費用を募るためのクラウドファンディング(CF)には現時点で予想の3倍近い約1730万円が集まり、長谷川氏は「日本社会には楽観的だ。(CFは)普通の市民が権力と戦う新しい武器だと思う」と、手応えを感じている。
「指の先にしか病気が感染していないのに、腕をまるごと切断するようなもの」
都は3月18日、営業時間を20時までに短縮する緊急事態宣言下の要請に応じない27店舗に時短命令を出した。グローバル社は命令に従う形で、宣言が解除される前日の21日までの4日間、20時までの短縮営業に切り替えた。グローバル社は、宣言が解除された翌22日に訴えを起こした。都の対応の違憲性を問うのが大きな目的で、請求額は104円(1店舗あたり1円×26店舗×4日間)にとどめた。
長谷川氏は今回の記者会見で、
「この(新型コロナ)ウイルスは危険なものではないと信じているが、リスクが高いのは高齢者と病人(基礎疾患がある人)だ。これらの人々を守るための対策を何も行うことなく、彼ら(行政)は(事業を)シャットダウンさせている。指の先にしか病気が感染していないのに、腕をまるごと切断するようなものだ。多くの人がその間で苦しんでいるのに、その治療はしない」
などとして、ハイリスクな人々への対応が行われないまま、過剰な対策で事業へのダメージばかりが大きくなっていることを指摘。さらに、都から送られてきた命令文書に、理由のひとつとして
「緊急事態宣言に応じない旨を強く発信するなど、他の飲食店の20時以降の営業継続を誘発するおそれがある」
と書かれていたことを
「言論の自由を否定するのか。何も悪いことや違法なことはしていない。事実関係をフェイスブックで公開しただけだ」
などと批判した。加えて、時短命令の対象として事実上「狙い撃ち」されたことで、表現の自由と法の下の平等という「民主主義社会ではきわめて重要なふたつの権利」が侵害されていると訴えた。
「私は商売人なので、こんなことはしたくない」けれど...
長谷川氏は
「私は商売人なので、こんなことはしたくない」
一方で、
「これを看過すると、死ぬときに後悔する。カネの問題ではない」
と話した。
世論も広がりを見せているようだ。3月22日に訴訟費用を工面するためのCFを立ち上げたところ、記者会見時点で約2600人が約1730万円を寄付。長谷川氏は
「600万円程度が集まるとみていたが、1週間でそれよりもはるかに多くの人が寄付してくれた。日本社会には楽観的だ。(CFは)普通の市民が権力と戦う新しい武器だと思う」
と話した。
都の違憲性を訴える訴訟であっても、訴訟の「勝算」は関心事だ。訴訟代理人の倉持麟太郎弁護士は、「試合に負けて勝負に勝つ」という慣用句を挙げながら、
「もちろん訴訟には勝つつもりでやっているが、やはりその中で問うている憲法違反や長谷川社長がおっしゃった民主主義の話だとか、そういうことを問題提起することが第一の目的。まずはその中身で『勝負』に勝つことを重視している」
などと話した。
記者会見では、厚労省の職員23人が深夜まで送別会を開き、田村憲久厚労相が陳謝した問題に関する質問も出た。長谷川氏は
「国会議員や政府で働いている科学者の多くは、このウイルスが何者なのかを理解している。彼らは自分と同じ感情を共有している」
「彼らは、自分が外出したり飲酒したりする分には、自分にとっては危険ではないと思っている」
などと官僚の認識を推測。それでも同調圧力で深夜の会合は危険だとする立場を取らざるを得なくなっているとして、
「これは偽善で、自分が危険だと思っていないなら、この方向性を支持すべきではない」
と主張した。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)