刀剣を擬人化した人気ゲーム「刀剣乱舞」を原作にした舞台は今や花ざかり、2.5次元舞台の中でも大きなウェイトを占める老舗のシリーズになった。この舞台、実は「刀ミュ」「刀ステ」とファンから通称される二つの系譜に分かれていて、どちらも毎年新作を上演し観客を集めている。一体どう違って、どんな魅力があるのか?2.5次元舞台にも詳しい演劇ライターの横川良明さんの解説も踏まえて、奥深い「刀剣乱舞」のステージを探ってみたい。
華やかなミュージカルと重厚なストレートプレイ
はじめに「刀ミュ」「刀ステ」の系譜について。ネルケプランニング(東京都目黒区)が制作する「刀ミュ」は2015年のトライアル公演の後、2016年に初演のミュージカル「刀剣乱舞」を指す。「刀ステ」はマーベラス(東京都品川区)が手掛ける舞台「刀剣乱舞」シリーズの通称で、こちらも2016年初演だ。
刀ミュはミュージカルと銘打つだけあって、劇中でも歌とダンスをふんだんに用いて舞台は進む。そして公演は2部構成で、1部がミュージカル、2部はライブで構成され、2部は音楽ライブやコンサートのように華やかなステージとなる。「ライブは宝塚のショーのようなステージで、また観客はペンライトで応援することもできる華があります」と横川さん。
一方刀ステはほとんど歌はなく、セリフで芝居が進むストレートプレイである。その分ダイナミックな殺陣が見どころで、役者の演技力で魅了する舞台になる。
刀ミュは伊藤栄之進(御笠ノ忠次)さん、刀ステは末満健一さんと同一の脚本家が継続して脚本を担当しており、舞台のカラーも分かれている。ともに刀剣を擬人化した刀剣男士が過去にさかのぼり実在の人物―刀剣の持ち主でもあった「元の主」とも対峙しつつ、歴史修正主義者による歴史改変を防ぐべく戦う。
「伊藤さんが作る刀ミュの舞台は歴史へのリスペクトがにじむ構成です。『TRUMP』シリーズや舞台『鬼滅の刃』などダークな作風でファンが多い末満さんの舞台は強烈な悲劇性があり、観客が劇に没入できる吸引力があると思います」(横川さん)
初演から様々な時代でのエピソードが舞台化されているが、各公演のストーリーは基本的に1作で完結している。「刀ステも刀ミュも全シリーズを通して三日月宗近を軸とした壮大なストーリーになっていますが、どの作品から見始めても大丈夫ですし、そこから過去の作品を見ていくと各作品がつながってさらに興味が深まります」(横川さん)
キャストも、一部の刀剣男士以外は第1作から最新作まで同じ俳優が演じている。例えば三日月宗近は刀ミュでは黒羽麻璃央さん、刀ステでは鈴木拡樹さんが演じ、それぞれの公演ごとのエピソードがつながっていることをより実感させる。
海外公演、元タカラジェンヌ起用...続く新境地
ショー志向の刀ミュと、芝居志向の刀ステと作風が分かれる中、イベント展開に積極的なのは刀ミュの方だ。刀ミュは中国・タイなどでも公演を行い、2018年のNHK紅白歌合戦には「刀剣男士」として主要キャストが出演、21年1月にも5周年記念公演の「五周年記念 壽 乱舞音曲祭」を東京ガーデンシアターで開催した。
テレビなどで見る機会は刀ミュの方が多いかもしれないが、それと刀ステは別物だ。刀ステの方は20年に「科白劇 舞台『刀剣乱舞/灯』綺伝 いくさ世の徒花 改変 いくさ世の徒花の記憶」で史上初の女性キャストとして細川ガラシャ役に七海ひろきさんを起用、21年の「舞台『刀剣乱舞』无伝 夕紅の士 -大坂夏の陣-」では高台院役に一路真輝さんを起用して、新たな相乗効果を生み出そうとしている。七海さん・一路さんともに宝塚歌劇団で男役経験があるが、刀ステでは女性役として出演、配役発表時にはファンがどよめいた。
それぞれに魅力を発信し続けている刀ミュと刀ステ、観客側の嗜好は、どんな人がどちらの舞台に向いているか。
「どちらも高いストーリー性が魅力ですが、あえて言うなら刀ミュはライブやコンサートの感覚で、ペンライトを客席で振って盛り上がりたい人だとさらに楽しめるでしょうし、刀ステは深い世界観で、心にずしんと来る舞台を求めている人にはたまらないでしょう」(横川さん)
2015年のゲームリリースから6年になる刀剣乱舞だが、コンテンツに欠かせない牽引役にもなった二つの舞台、見比べてみるのもいかがだろうか。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)