「ライバーになりませんか」SNSに飛び交う「スカウトDM」、送り主は何者? 「業界」の実態を探った

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   「『ライバー』としてご活躍いただけないか」、「今話題の〇〇でライブ配信を始めてみませんか?」――現在SNS上では、ライブ配信サービス上で配信を行う「ライバー」の勧誘が増加している。そのメッセージを参照すると「副業感覚で稼げる」、「配信をするだけですぐに時給がもらえる」と、手軽に稼げることを売りにしているものが多くみられた。

   しかしスカウトを受け取った人々からは、「ライバーって何」、「あやしい」という声もあがっている。「ライバー」とは何か、スカウトの送り主は何者か。J-CASTニュースが実態を取材した。

  • ライバー向けブログ「しばらいぶ」を運営する神崎たいきさん
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  • 公式ライバー育成事務所「NEXTWAVE」を運営するVIA代表で元「17LIVE」社員の横田竜一さん
    公式ライバー育成事務所「NEXTWAVE」を運営するVIA代表で元「17LIVE」社員の横田竜一さん
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「普通の大学生なのにすごい経験をさせてもらった」

   「ライブ配信」とは、配信者(ライバー)と視聴者(リスナー)がリアルタイムでコミュニケーションできる動画配信サービスだ。ライブ配信ができるプラットフォームとしては、17LIVEやPocochaなどが知られている。

   「ライバー」とは、こうしたプラットフォームを通じてライブ配信を行う人々を指す。主にスマートフォンで配信を行い、リスナーからの「投げ銭」を収入源とする。

   一口にライバーといってもさまざまな人がいる。音楽活動を趣味とする現役ライバーの女子大生は取材に対し、コロナ禍によって人前で歌うことができる機会が減る中で、ライブ配信に活動の場を見出していると明かす。手軽に配信を開始でき、リスナーからリアルタイムなリアクションを得られることが魅力的なのだという。この女性ライバーはコロナ禍が落ち着いたら、リスナーとリアルなライブハウスでも交流を行いたいと意気込んでいる。

   ライバー向けブログ「しばらいぶ」を運営する神崎たいきさんは、大学生のころにライバー活動をしていたと取材に答えた。神崎さんはライブ配信について、「配信という仰々しい感じではなく、友達とビデオ通話をしているような感じ」だと話す。神崎さんの配信は雑談が中心だったが、ヒッチハイク旅行の配信も企画したという。

「コロナ禍以前、千葉から鹿児島までヒッチハイク配信を行いました。各地で応援してくれるリスナーさんが助けてくれて、ご飯をおごってもらったり、一緒に観光したりしました」

   またプラットフォームが開催するオフラインイベントにも参加した。神崎さんは17LIVE本社のある台湾で開かれたイベントにも参加し、「普通の大学生なのにすごい経験をさせてもらった」と振り返っている。

   そんなライバーら2人のもとにも、冒頭のスカウトは大量に届いているようだ。

スカウトの送り主は何者か?

   J-CASTニュース編集部がライバーの勧誘を行うスカウトメッセージの中身を確認すると、送り主は主に2種類に分けられた。ライブ配信プラットフォームと、プラットフォームにライバーを送り出す「ライバー事務所」だ。今回、実際にSNSでスカウトメッセージを送っているライバー事務所に話を聞くことができた。

   公式ライバー育成事務所「NEXTWAVE」を運営するVIA(東京都杉並区)代表で元「17LIVE」社員の横田竜一さんはこう話す。

「ライバー事務所は、端的に言えばライブ配信のプラットフォームにライバー候補や現役ライバーを供給し、マネジメントを行うものです。ライブ配信のエージェント、代理店という呼ばれ方もされます。 ライバーにファンの獲得方法やイベントの活用方法を教えたりするほか、自身のプライバシーを保護するために住所の貸し出しを行ったり、ライバーのメンタルのケアを行うことが多いです。つまり『いかに本人たちがやりやすく配信をできるか』サポートしています」

   横田さんはSNSで勧誘を行う理由について、こう述べている。

「ライブ配信はライブ配信自体に価値があるというよりは、コミュニティに価値があります。ツイキャスやニコ生がイメージしやすいように、コミュニティ自体が力を持っているものですのでペルソナとして承認欲求が強くてまめな方でないと続きません。そこでSNSのアクティブ率などを参考にし、スカウトを行っています」

   ライブ配信文化を盛り上げるためにはSNSの活用もカギになるため、SNSでのアクティブ率がスカウトの基準の一つになっているという。横田さんの会社ではこのほかに、ビジュアルやライブ配信の経験の有無を見てスカウトを送っているとのことだった。

   芸能界から参入したライバー事務所もある。「ジャパンピックアップレコード(JPR)」代表の小泉智則さんはこう話す。

「弊社はもともと芸能プロダクションです。『今よりも有名になりたい』というタレントの子たちを育て上げる小さな事務所でした。3年ほど前にLINEからお話をいただき、『LINE LIVE』で活躍する配信者をSNS上でスカウトし始めたのがライバー事務所になるきっかけでした。現在はインフルエンサー、ユーチューバー、ライバーなどが3500人所属しており、ブッキングやキャスティングのサポートを行っています」

ライバー事務所とプラットフォームで、ライバーの取り合いに?

   このようにライバー事務所は、ライバーたちに配信のためのサポートやタレントとしてのマネジメントを行っているとのことだ。

   また事務所に所属すると、プラットフォームの規定する「公式ライバー(認証ライバー)」になることができるという。公式ライバーになると個人でライブ配信を行うよりも報酬が増える、「公式ライバー」として露出が増えるなどメリットがある。横田さんによれば時給が2000~3000円を超えるライバーも少なくなく、中には月に数百万円稼ぐような専業ライバーもいるとのことだ。

   「公式ライバー」になるには、プラットフォームと契約を結ぶという手もある。プラットフォームも事務所同様に、ライバーのスカウトやマネジメントを行っているのだ。

   しかし横田さんは、ライバーとプラットフォームの間の契約形態に疑問を感じていたと話す。

「いくつかのライブ配信プラットフォームはライバーに対して独占契約を結んでいます。ライバーは契約期間内に他のライブで配信ができないというものです。ただ現状日本では数十にも及ぶ魅力的なプラットフォームがある中で、独占契約のようなライバーの可能性を狭めるものはナンセンスと感じました」

   ある事務所の担当者は、ライバーのスカウトや育成については事務所側に託されていたのに、途中からプラットフォーム側がその事業に参入しだしたために困っていると話す。

「本家(プラットフォーム)にスカウトされちゃうと勝てないんです。力がある子たちが、どんどん事務所からプラットフォームに引き抜かれてしまいました。これがきっかけでSNS上でのスカウトがデットヒート化したのではないでしょうか」

   この事務所によれば、当初はプラットフォーム内で公式ライバーの勧誘を行っていたという。しかし事務所所属ライバーを公式プラットフォームが引き抜くことなど、スカウト同士の問題が多発した。そこでこの事務所はプラットフォーム内で勧誘するのではなく、ツイッターやインスタグラム上で「無所属ライバー」を発掘することにしたと話した。

多量のスカウトには「むかつく」の声も

   2021年3月現在、SNS上では数多くのライバー勧誘が飛び交うようになっており、それが冒頭で紹介したようなメッセージだったというわけだ。気になるのは受け取った側の反応だが、先述の元ライバー神崎さんは、大量のスカウトにうんざりしているという。

「今はライバー活動を休止しているとSNS上にも書いてあるんですけど、まだ勧誘してくるところもあるんですよ。『プロフみてますか?』って送ったら黙っちゃうところもある。ちょっとムカつきますね、何も見ずに送ってくる営業のDMは」

   こうした声をライバー事務所はどうとらえているのか、JPRの小泉さんはこう話す。

「会社としては、そのような声には親身に受け止めて何か対策を講じなければと思います。しかし個人的には、昔よくあった青山とか池袋とかで『芸能人なりませんか』と声をかけるスカウトと同じかと思います。興味がない人は『そんな興味ないんで』、『うるさい』と捉えられると思いますが、そこからチャンスをつかんで有名になった人もいます。弊社に所属するタレント3500人も迷惑しなかったのではないかと思います」

   実際にJ-CASTニュースが取材した前出の女性ライバーは、スカウトが届くことについて「認められたようで嬉しい」と語っていた。彼女もプラットフォーム側のスカウトではあるが、これをきっかけに公式ライバーとして活躍していた。

   一方でVIAの横田さんはスカウトが困惑される背景をこう分析する。

「スカウト自体がネガティブに捉えられている背景としては、新型コロナウイルスによる巣ごもり需要の影響で良くも悪くもライバー事務所が増えました。2年前はアクティブなもので500社くらいだったのですが、今は2000社を超えています。その中にはよく分からない業者、ライブ配信の見識もないけど参入してきた業者が、なりふり構わずDMを送ることも増えているんです。そういった部分では、スカウトは反省すべきだと思います」

   J-CASTニュースが参照したスカウトDMの中にも、他社の住所を所在地だと偽る怪しいスカウトもあった。ただしプラットフォーム側である「17LIVE」、「Pococha」、「LINE LIVE」によれば、これまでにSNSユーザーと提携ライバー事務所間におけるスカウト関係のトラブルは把握していないとのことだ。

ライバー事務所はどう選ぶべき?

   コロナ禍を経てライバー事務所はもちろん、ライバーも激増を続けている。人とのつながりや、家の中での余剰時間を埋めたい人が増えているのだ。

   仮に事務所からライバーデビューする場合、事務所選びにも注意点があるようだ。前出の神崎さんは、「元ライバー」目線でのブログを運営しているとして、そちらも参照してほしいとしつつ、こう述べる。

「やっぱりホームページで実績を見たほうがいいなと思います。所属しているライバーさんのSNSを見て、しっかり運用できているか見ることも大事です。また事務所によっては機材や配信に役立つグッズの貸し出しも行っているので、自分の配信にあったサポートをしてくれるかどうかをチェックしたほうがいいかなと思います」

   今回取材したライバー事務所らいずれも、神崎さんと同じような注意点を指摘していた。

   またVIAの横田さんによれば、ライバー事務所と事務所の間で最も多いトラブルは金銭に関することだという。事務所に入る際には、きちんと比較を行い、契約内容などをよく確認したうえで後悔のない選択をしてほしいと語った。

   JPR小泉さんは、ライバーの収入の形を知ってほしいと語っていた。

「配信でいただいた投げ銭は、『ライバー』本人と『プラットフォーム』、さらに事務所に所属している場合は『事務所』の三者で分けることが一般的です。運営・継続費用として事務所が投げ銭を頂戴することに対し、『中抜き』だとクレームをいただくこともあります。とはいえ我々もこれが仕事ですし、あるプラットフォームでは、個人ライバーより事務所所属の公式ライバーとして活動したほうが、ライバーの懐に入る投げ銭の割合は大きくなります。そういう制度を知ってほしいです」

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

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