台湾のオードリー・タン(唐鳳)デジタル担当相と小学4年生の作家、秋元ういさん(10)による異例の対談が2021年3月19日に行われた。
秋元さんは小学1年生だった18年、新入生が学校生活を楽しく安心して過ごすための心構えを説いた小冊子「しょうがっこうがだいすき」を自費出版。後に絵本としても発売され、10万部以上を売り上げた。2冊目として、夏の自由研究を機にトランスジェンダー当事者2人にインタビューした小冊子「小学生の私たちが知っているだけで、せかいを変えることができる。」を自費出版したばかり。タン氏は自身がトランスジェンダーであることを公表しており、父親の祥治さん(41)の友人の勧めで20年末に手紙を送ったところ、対談が実現した。
「虹のように色々な体験をすることが自分をつくっている」
ういさんは
「小学生が読めるトランスジェンダーの本があまりにも少なかったので、自分で本を作ることにした」
と説明した上で、トランスジェンダーとして感じることについて質問を重ねた。対するタン氏は、ジェンダーとは単に身体的、生理的な問題にとどまらず「経験」と密接に関係していることを繰り返し強調。ステレオタイプから脱することの大切さを訴えた。
例えば「女性になった時の気持ち」について、タン氏は
「女性の体の生理的現象があるからと言って全部自分が女性になってしまったというわけではなく、虹のように色々な体験をすることが自分をつくっている」
「例えば人の感情がすごくよく分かるようになったり、もっと微妙な関係を人と結べるようになったり、人を大事にしようという気持ちが女性になって芽生えた。だからといってそれだけが自分を女性として定義するものではない。いろいろなものが混ざり合っている」
などと説明。さらに、自分が女性だと気づいたきっかけについて問われたタン氏は、
「最初に気づいたのは、『男ならこうしろ』という世界からの期待に自分が答えられないと感じたとき。例えば、自分も、ういさんも本を書いているので、世の中の人は、私たちを『作家』というと思うが、それは私たちの経験であって、私たちは『作家』であるだけではない。いろいろなことをしているので、それだけに限定されない」
と話した。「作家」という枠にはめられる例え話を交えながら、ステレオタイプが形成されるプロセスを説明した。
「(自分のことを『作家』だと呼ぶ友人に対して)『作家じゃないよ』というと、お友達は『でも、作家じゃん。どうしてぼくを拒絶するの?』みたいなことになってくると思う。そういうことがステレオタイプをつくっていく」
「みんなが少しトランスジェンダーになってみたらいいのではないか」
若い世代ができることとして、「みんなが少しトランスジェンダーになってみたらいいのではないか」とも。台湾では、男の子の親から「ピンクのマスクでは学校に行きたがらない」という相談が寄せられ、新型コロナ対策の記者会見で登壇者全員がピンクのマスクをつけたというエピソードが広く知られている。このことを念頭に、タン氏は
「皆が好きな色を好きなようにつけるようにできたら、少しずつでもひとりひとりがトランスジェンダーになるということだと思うので、そういうことから始めるといいと思う」
と述べた。さらに、どうすれば多様性をもたらすことができるかについては、多数派と異なる人を「いじめる」ような動きについて、「『そういうのはだめだよ』と声をあげていくことが大事」だと説明。その上で、「声をあげる」ことの重要性を強調した。
「そうでないと、反対の声がどんどん強くなってしまう。社会の中で声をあげていく。そのことで『いじめ』というものが、コミュニティや社会の中でなくなっていくと思う。その中でメディアや、本を書く人の役割は大きい」
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)