プロ野球の公式戦が2021年3月26日に幕を開ける。
現在、シーズン開幕へ向けて各地でオープン戦が行われ熱戦が繰り広げられている。日本シリーズ連覇を狙う王者ソフトバンク、リーグ3連覇を目指す巨人...。今季のプロ野球はどのような展開を見せるのか。セ・パ両リーグとともにファンの興味は尽きない。
楽天・早川は腕の振りにクセが?
例年、春季キャンプからオープン戦にかけて新人選手の動向に注目が集まり、今年は阪神のドラフト1位・佐藤輝明内野手(21)が話題を集めている。巨人の大型新人、秋広優人内野手(18)も存在感を見せており、即戦力として期待される楽天・早川隆久投手(22)も注目のひとりだ。
楽天の開幕シリーズ第3戦目の先発候補でもある早川は3月7日の中日とのオープン戦に先発し、4回8安打3失点の内容だった。最速149キロの直球で三振を奪い、ポテンシャルの高さを見せた一方で、変化球に課題を残した。打たれた8本の安打のうち6本が変化球で、スポーツ紙の報道によると早川は「(腕が)緩んでしまった」と振り返っている。
中日の打者はおそらく早川が変化球を投げる際に腕の振りが緩むクセを見抜いたのだろう。投手のクセを瞬時に見抜き攻略する。プロの打者として当然のことなのかもしれないが、果たしてクセを見抜いただけでそう簡単に打てるものなのか。
「投手のクセというのはグラブのふくらみや角度など...」
J-CASTニュース編集部は、巨人、楽天などのコーチを歴任し、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)日本代表コーチを務めた経験を持つ橋上秀樹氏(55)に話を聞いた。
「投手のクセというのはグラブのふくらみや角度などで見抜くケースや腕の振り、リリースポイントなど技術的に球種を見破るケースがあります。プロの打者は球種が分かっていたらどんなにいい球でもかなりの高い確率で打ち返すことが出来ます。普段それほど打たれないような実力のある投手がいきなり連打された場合、投手コーチは必ずその試合のビデオを確認して、どこかにクセがないかを確認します。まずそこに原因があるのではないかと考えます」(橋上氏)
投手にとって投球のクセを見破られることは致命傷になりかねないことであるが、橋上氏は「今はパッと見て簡単には分からなくなりました」という。
なぜ投手のクセを見抜くのが難しくなったのか。橋上氏はその理由について次のように説明した。
「トラックマンが導入されはじめてからクセが...」
「トラックマン(高性能弾道測定器)が導入されはじめてからクセが分かりづらくなったと思います。トラックマンは細かい動作解析が出来るので、肉眼では分からないようなところの違いが分かる。セットポジションで変化球を投げる時と真っすぐを投げる時の2つの画面を重ね合わせたりすると、どこがどう違うかが一目瞭然となる。グラブのふくらみであったり、高さ、角度、リリースポイントだったり。投手はそれをみてクセが出ないように修正するようになりました」(橋上氏)
ハイテク技術の導入によって変化を見せる球界だが、過去には投手のクセを巡る様々なエピソードがあったという。橋上氏はそのなかのひとつを教えてくれた。
「2013年のWBCのオランダ戦(2次ラウンド)でした。オランダの先発投手(コルデマンス)にはっきりわかるクセがありました。バッターボックスからも分かり易い球種のクセが出てました。コルデマンス投手は何種類か変化球を持ってましたが、すべてクセがありました。確か一番のメインはチェンジアップだったと思います。それもはっきり分かるクセがありました」(橋上氏)
WBC監督、コーチは「やっぱりクセって怖いよな」
橋上氏は当時、日本代表の戦略コーチとしてチームに帯同していた。クセを見抜いたのはスコアラーで、試合前の全体ミーティングで「情報」は共有されたという。
試合は初回、先頭打者・鳥谷敬選手(当時・阪神)がいきなり本塁打を放ち、2回には松田宣浩選手(ソフトバンク)、内川聖一(当時・ソフトバンク)がスタンドに放り込んだ。2回までに大量6点を挙げ、コルデマンス投手をマウンドから引きずり下ろした。
日本代表はオランダを16-4の大差7回コールドで下し決勝トーナメント進出を決めた。橋上氏は当時のベンチでの様子をこう振り返った。
「ベンチで山本浩二さん(監督)と東尾(投手総合コーチ)さんから『やっぱりクセって怖いよな』と言われたのを覚えていますね。なにしろ選手たちはバッティング練習よりもしっかり打ってましたから」(橋上氏)