韓国から北朝鮮に向けて風船でビラを飛ばす行為をめぐり、韓国政府と脱北者団体との攻防が展開されている。
北朝鮮がビラ散布に猛反発していることを背景に、韓国では2020年12月、北朝鮮への配布を禁じる法律が成立。21年3月末の施行を予定しているが、韓国国内でも賛否が割れている上、米国は法律に否定的だ。そんな中、最近になって法解釈についてのガイドラインが示され、「第三国でビラなどを配布する行為」には、この法律が適用されないことが明らかになった。脱北者団体からすれば、中国から散布すれば問題ないという「抜け道」が開かれたといえ、結果的に北朝鮮と国内世論の双方に配慮する形になった。
米国務省「北朝鮮への自由な情報の流入は継続されるべき」
韓国と北朝鮮は18年4月の南北首脳会談で発表した板門店宣言で「軍事境界線一帯で拡声器放送とビラ散布をはじめとしたあらゆる敵対行為を中止」をうたっている。だが、その後も韓国側のビラ散布は続けられ、北朝鮮側を激怒させてきた。ただ、韓国側には具体的にビラ散布を取り締まる法律がなく、「航空安全法」などを援用して取り締まる状態が続いてきた。
そのため、ビラ散布禁止を盛り込んだ「南北関係の発展に関する法律」の改正案が国会に提出され、野党が反対する中で20年12月に可決・成立した。情報提供や宣伝用のビラなどを国境を超えて北朝鮮に送ることを禁じる内容で、違反すれば3000万ウォン(約288万円)以下の罰金または3年以下の懲役という罰則もついている。
ただ、この法律に対する懸念は根強い。米国では民主党、共和党双方の下院議員から反対の声が相次いだほか、改正案成立直後に聯合ニュースが報じたところによると、米国務省の報道官は同社とのインタビューで、基本的人権を守る観点から「北朝鮮への自由な情報の流入は継続されるべき」だと表明。非政府組織(NGO)などと協力して北朝鮮住民への情報アクセスの改善に取り組む姿勢を強調した。
懸念呼んだ「単に第3国を経るビラなどの移動を含む」の意味
拡大解釈の懸念も出た。改正案では「散布」の意味について、
「北朝鮮の不特定多数の者に配るか、または北朝鮮に移動する(単に第3国を経るビラなどの移動を含む。以下同じ)させる行為」
だと定義されており、これが第3国での活動を罰することにつながる、という指摘だ。
これを整理しようと統一省が21年3月9日、条文解釈のためのガイドラインを発表。それによると、「単に第3国を経るビラなどの移動」を
「ビラなどが気流、海流など自然要因により、第3国の領域または公海上を経て、北朝鮮に移動すること」
だと定義し、
「第3国でビラなどを散布する行為は、この法律の適用対象ではない」
と明記した。中国やロシアからビラを散布しても、この法律で罰せられないことが明確になったわけだ。
改正法は、ガイドラインとともに3月30日に施行予定だ。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)