「新たな生き方」のきっかけに
仲條さんの「災害伝承10年プロジェクト」の活動は、2020年2月9日の鳥取県境港市での講演が現時点では最後だ。この後、国内では新型コロナウイルスの感染が拡大し、遠方には赴いていない。ただ、「仲條さんの話を聞きたい」と旭市へ来る人には変わらず自身の体験談を語っている。
「旭市防災資料館」に足を運ぶこともある。津波の様子や被害状況が克明に記されたパネル、津波の到達時刻に止まった時計の展示が、当時の記憶をリアルにする。資料館もコロナ対策で、現在は予約制とし、館内が密にならない工夫をしながら来館者を受け入れ続けている。
東日本大震災以降、この10年間に多くの地域で地震、台風、豪雨災害が頻発した。仲條さんは「むしろ被災から逃れた地域から、話を聞きたいとの要望がある」という。2018年に訪問した福岡県うきは市では講演後、聴衆の一人が「実は私も豪雨災害に遭いました」と明かした。その前年、隣接する朝倉市を中心に起きた九州北部豪雨で被害にあったのだ。仲條さんは「『ここまで浸水した』という経験談をぜひ、地元の人に伝えてほしい」と促した。それが人々の意識を高め、早めに逃げるきっかけになると考えたからだ。
震災経験を伝えることで、今後の防災に生かしたいと仲條さん。一方で、被災したつらい記憶をいつまでも引きずらず、「次へ一歩踏み出す」ことが大切だと考える。「特に今は、新型コロナの到来で世の中は大きく変わろうとしています。つらかった経験は心の隅に残していいから、新たな生き方をしていこうと前に進むタイミングではないかと、私は思います」。(この連載は随時掲載します)
(J-CASTニュース 荻 仁)