総務省幹部が東北新社やNTTから高額接待を受けた問題の背景には、総務省が持つ巨大な許認可権があった。代表的な許認可権のひとつが放送免許だ。ただ、先進国では、米国の連邦通信委員会(FCC)のような独立規制機関が放送免許を出す国の方が多く、政府機関が直接放送免許を出す仕組みを持つ国は、G7では日本だけだ。
2021年3月5日に行われた菅義偉首相の記者会見では、この特殊性を指摘する質問も出た。菅氏は、電波の周波数帯の利用権を競争入札にかける「電波オークション」の検討にも前向きな答弁をしたが、メディアの扱いはほぼ「黙殺」状態だ。
日本でもGHQ占領下に存在した「電波監理委員会」
G7以外にも、台湾のNCC(国家通信放送委員会)など、独立規制機関が放送局や無線局の免許を出す制度を導入する国や地域は多い。例えば米FCCでは、大統領が議会上院の助言と承認を受けて委員5人任命。委員長には放送出身者が多く、委員はFCC職員や連邦議会スタッフ経験者が多い。
英国では放送通信庁(Ofcom=オフコム)が放送免許の許認可権を握る。21年2月には、中国国営の英語の国際放送、中国環球電視網(CGTN)の英国内での放送免許を取り消したことが世界的にも話題になった。委員は9人おり、そのうち政府が6人の「非執行役員」を任命し、非執行役員による指名委員会が、3人の「執行役員」を任命する仕組みだ。
日本でも、過去に同様の仕組みがなかったわけではない。連合国総司令部(GHQ)占領下の1950年、FCCをモデルに「電波監理委員会」が総理府(当時)の外局として設置された。ただ、GHQの指導で設置された特別委員会は責任の不明確さや業務の非効率さが問題視され、52年に日本の主権が回復したことを受け、その多くが廃止された。「電波監理委員会」も例外ではなく、廃止後は郵政省(当時)に統合されて今に至る、という経緯がある。
今回の首相会見では、こういった背景を念頭に、総務省が放送事業者について強い監督権限を持ち続けていることの妥当性と、今後の制度設計の可能性に関する質問が出た。次のような内容だ。
「日本は免許の付与権限を他の欧米諸国のように倣って、例えばかつての電波管理委員会のような行政機関のようなものを設立して、そこに付与するようなお考えはないのか」
「規制改革を旗印としている菅政権としては、例えば電波オークションなどを導入することによって、放送の新規参入を推進していくお考えというのはあるのか」
「電波オークション」の単語使って首相会見報じたのは...?
菅氏は、
「放送を含む情報通信分野というのは、技術革新や国際競争が極めて激しく、国家戦略的な対応が求められる。そういう意味の中で、機動的、一体的、総合的な対応を可能とする独立した省の形で大臣が責任を持って迅速に行政を執行する制度、今、日本はなっていると思う」
として、総務省が放送局や無線局の免許に関する権限を握る現状は妥当だとの認識を示した。
一方で、質問の後段については
「電波そのものについては、インターネット、そういう中で放送と通信の境がなくなってくるとか、いろいろな状況になってきているのも、これは事実だと思います。そうしたことをもう少し検討する必要があるのではないかなと思っています」
と答弁。電波オークションの検討に前向きな姿勢を示した。
ただ、この日の会見のやり取りを「電波オークション」の言葉を使って報じたのは、新聞では産経新聞がウェブサイトの「詳報」で触れただけで、ほぼ「黙殺」状態だ。キー局と新聞社が互いの株を持ち合う「クロスオーナーシップ」の影響で、新聞も電波の割り当てに代表される電波行政の検証は難しいとの批判は根強い。
実は、電波オークションに向けた動きは、少しずつ進んでいる。19年の電波法改正では、携帯電話などの電波の割り当ての申請をする際に、申請する周波数の経済的価値を「評価額」として提出し、この評価額が審査項目として加わるようになった。これまでの審査項目と合わせて「評価額」も審査されるようになり、周波数割り当ての際に電波オークションの要素が加わったといえる。
菅氏は20年10月29日の衆院本会議でも、電波オークションの検討について言及している。日本維新の会の馬場伸幸幹事長の質問に答える形で、19年の法改正に言及しながら
「オークション制度については、メリット、デメリット、導入した各国におけるさまざまな課題も踏まえ、引き続き、総務省において検討していくこととしている」
と述べている。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)