新型コロナウイルスの感染状況について厚生労働省が毎週金曜日に公表している6つの指標のうちの一つが、2021年2月下旬に大幅に数字が変動したとして波紋が広がっている。これらの指標は感染状況を示す4つのステージのうち、どのステージにあるかを政府の分科会が判断するための基準でもあり、緊急事態宣言を継続すべきかの判断にも影響する。
東京都独自の基準で集計していた数字を、国の基準でも集計するようになったのが原因だ。3月4日の参院予算委員会では「きわめて重要なデータがあやふやな状態で、緊急事態宣言の延長を要請する東京都は、私は非常に無責任だと思う」として、経緯の検証を求める声もあがったが、議論はかみ合わなかった。
なぜ病床使用率が「100%超え」したのか
指標は(1)病床のひっ迫具合(2)療養者数(3)最近1週間のPCR検査の陽性率(4)直近1週間の陽性者数(5)直近1週間と前の週の陽性者数の比較(6)感染経路が不明な人の割合、の6つ。都道府県から集まったデータを厚労省がまとめてウェブサイトで公表している。この(1)のうち、都の重症患者の病床使用率が大きく変動したことが波紋を広げた。2月19日発表の16日時点の数字は86.2%だったが、26日発表の23日時点の数字は32.7%。前週比で実に53.5ポイントも改善した。
その経緯はこうだ。使用率は重症患者数を病床確保数で割って算出し、「分子」にあたる重症患者数は国と東京都で同じだった。「分母」の基準が都と国で違ったのが原因だ。国の基準では、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)での管理が必要な人や、集中治療室(ICU)や高度治療室(HCU)を使用している人のための病床をカウントしてきたが、都の基準では、人工呼吸器やECMOでの管理が必要な人のみをカウントしてきた。国の基準よりも、都の基準でカウントした方が数は小さく出ることになる。
この結果、都の病床確保数は、人工呼吸器やECMOでの管理が必要な人向けの病床として「500床」だとされてきたが、1~2月上旬には都内で重症患者数が増え、使用率が100%を上回る事態が発生。発表の妥当性を疑問視する声があがり、国も都に対して対応を求めていた。これを受けて都が国の基準に従って病床数を確認し「1000床」に修正した、という経緯だ。分母の数字が大きくなった分、使用率も大きく下がった。具体的には2月16日は「431人/500床=86.2%」だったものが、2月23日は「327人/1000床=32.7%」という変化だ。