セキュリティは?もし業者が破綻したら? 議論進む「デジタル給与払い」、期待の一方「問題」も

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資金移動業者が破綻したらどうするか

   だが、良いこと尽くめというわけではなさそうだ。まず、セキュリティ。犯罪者との攻防はエンドレスに続くが、2020年秋に発覚した電子決済サービス「ドコモ口座」を通じた銀行預金の不正引き出し事件のため、今回のデジタル給与払いの議論が一時ストップした。金融庁は不正発生時の被害補償の義務付けに動くが、具体的に各業者の対応は不明だ。

   銀行との関係も問題をはらむ。厚労省が、全額でデジタル振り込みではなく、銀行口座振り込みとの併用を想定しているが、それも銀行との問題をにらんでのこと。

   最大のポイントは、資金移動業者が破綻したらどうするか、ということだ。銀行など金融機関は、破綻に備えた預金保険制度があり、預金者の預金は元本1000万円までが保護される。金融機関はそのために、保険料というコストを負担しているし、厳しい自己資本規制も課されている。

   資金移動業者は供託などで利用者の資金の全額を保全しなければならないが、取扱額が日々変動していることから、タイムラグが生じ、経営破綻時に保全額が十分ではないこともありえる。払い戻せる場合でも、金額の確定までに半年程度かかるとされる。この点について厚労省は、保証会社や民間保険会社と契約することで、仮に破綻しても数日で給与の支払いができるようにすることなどを検討しているというが、それで十分かはわからない。

   もっと根源的な問題もある。金融機関の預金との境界のあいまいさだ。資金移動業者に滞留する資金は短期で決済に使われるのが普通だが、見かけ上は預金と変わらないし、中には、長期滞留する資金もある。資金移動業者は利息を付けてお金を預かることは禁じられているが、2020年12月、資金移動業者「Kyash」(東京都港区)が「チャージ残高に年利1%のポイント付与」を発表し、「事実上の預金」と大騒ぎになった。

   同社はサービス開始前日に実施を見送り、ひとまず収まったが、ポイント付与やキャッシュバックは資金移動業者の常とう手段で、デジタル給与払いが解禁され、争奪戦になった時、例えば振り込み額に応じたポイント付与などのサービス合戦が起こらないとも限らない。それは許容されるだろうか。 こうした様々な課題が山積するだけに、デジタル給与振り込みが厚労省の思惑通り年度内に実現するか、予断を許さない。

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