新型コロナウイルス禍が長引く中でも、収束後を見越して着々と布石を打つビジネスもある。何十年単位で事業を進める不動産デベロッパーがその代表例だ。
東京都内に緊急事態宣言が出され、都心のホテルが苦戦している2021年2月。森ビルが進めている再開発事業「虎ノ門・麻布台プロジェクト」(開業後の名称は未定)に世界的な高級ホテルリゾート「アマン」によるレジデンスとホテルが進出すると発表された。再開発事業の完成は23年3月を予定している。
「世界トップレベルの住環境とホテル」
虎ノ門・麻布台プロジェクトとは、東京都港区で19年に着工した再開発で、いずれも森ビルが手掛けた「アークヒルズ」「六本木ヒルズ」「虎ノ門ヒルズ」のほぼ中間に位置している。約8.1ヘクタールもの計画区域には3棟の高層ビルを建設し、21万平方メートルを超えるオフィスや約1400戸の住宅などを設ける。
3棟の高層ビルのうち「A街区タワー」(仮称)の高さは約330メートルで、完成時には日本一高いビルとなる。港区を中心に都市開発を進めてきた森ビルが約5800億円を投じる一大プロジェクトだ。
今回、アマンの進出が発表されたのは、A街区の最上部(54~64階)のレジデンス「アマンレジデンス東京」と、B-2街区にある高さ約240メートルのビルの低層部(1~13階)のホテル「ジャヌ東京」(約120室)だ。
アマンは小規模な高級リゾートホテルをタイのプーケット島を皮切りに世界で展開しており、アマンの姉妹ブランドホテルであるジャヌは日本初進出となる。
これらは「これまで東京にはなかったような世界トップレベルの住環境とホテル」(森ビルの辻慎吾社長)を目指しており、国内外の富裕層やビジネスパーソンの利用を念頭に置いている。
三菱地所も高級ホテル計画
出入国が厳しく制限されているコロナ下の日本では、ビジネスや観光のために訪れる外国人は大幅に減少している。近年著しく増加していた訪日外国人数は2020年に前年比87%減まで落ち込み、変異ウイルスが各国で広がりを見せる中では回復に時間がかかると見込まれている。
それにもかかわらず、富裕層向けの投資が進むのは、コロナ対策による世界的な金融緩和を背景に株価が実体経済と乖離して上昇しており、株式などの金融資産を豊富に持つ富裕層が恩恵を受けているからだ。
つまり、コロナ下の経済は「持てる者」と「持たざる者」の格差を広げており、現在は逆風に苦しむホテルであっても、富裕層向けに関しては勝算があると見込んでいるのだ。
2027年度には、森ビルのA街区タワーを超える高さ約390メートルの超高層ビル「TOKYO TORCH(トウキョウ トーチ)」が東京駅北側にオープンする計画もある。こちらは三菱地所が中心にプロジェクトを進めており、高層部分(57~61階)には、やはり「国際級ホテル」の進出が予定されている。
国内外の富裕層がくつろぐ超高層ビルの高級ホテルは、庶民にはとても手が届かない価格帯に設定されることは間違いないだろう。コロナ下のいびつな経済がもたらす格差拡大の先には、いったい何が待ち構えているのか。