半導体大手のルネサスエレクトロニクス(東京・江東区)が、同業の英大手ダイアログ・セミコンダクターを買収することが決まった。
2017~2019年に実施した計1兆円規模の買収に続く3社目の大型案件になる。有利子負債の膨張で財務悪化への懸念も強く、早期に買収の効果を示すことが求められる。
買収総額は約6167億円
ルネサスは2021年2月8日、ダイアログ買収を発表した。それによるとルネサスは21年末までに1株当たり67.50ユーロ(約8500円)で、独フランクフルト証券取引所に上場するダイアログの発行済み全株式を取得する。買収総額は約48億8600万ユーロ(約6157億円)になる。
ダイアログは1998年設立。工場を持たず開発と設計に特化したファブレス企業で、電子機器の電源制御用半導体に強いほか、携帯の高速通信規格「5G」など通信関連の技術にも定評がある。米アップルのスマホにも採用されており、一時は売上高の6割超をアップルが占めたが、近年は低下しているという。19年12月期の売上高は約1644億円。
ルネサスは自動車のモーターなどの動きをきめ細かく制御するマイコンが主力だが、近年はIoT関連やデータセンターなど成長分野を強化してきている。今回のダイアログの買収で事業の幅をさらに広げたい考えで、具体的には両者の得意技術を組み合わせ、5G基地局向けの製品開発などを図るという。
買収完了から4~5年後に約2億ドル(約210億円)の増収効果、3年後に約1億2500万ドル(約130億円)のコスト削減効果を見込む。
ルネサスは近年、買収を活発に実施している。17年に同業の米インターシルを約3500億円、19年には米インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)を約6900億円で傘下に収めている。製品ラインアップは広がったが、20年9月末の有利子負債は7171億円に膨らんでいる。
ダイアログの買収は銀行から新たに借り入れる計画で、最大2700億円の増資も予定しているが、財務の悪化への懸念は強い。
半導体業界は「特需」に沸く
他方、足元の業績はいい。最終的なもうけを示す純損益は19年12月期は赤字だったが、20年12月期は457億円の黒字となった。
5Gが普及期になって世界的に半導体需要が活況だったほか、過去の大型買収の効果も実を結び始め、営業利益は前期の10倍に拡大。車向け半導体の世界的な不足で価格が上昇しているのも追い風で、21年12月期には値上げが営業利益を最大100億円押し上げるとの試算もある。
市場ではその値上げ効果が22年12月期まで続くとの見方と、21年12月期の上半期までとの見方など、強弱分かれる。
このため、2月8日の買収発表と10日の決算発表を受けたルネサスの株価は、9日に前日比66円高の1269円、12日には同76円高の1316円を付ける場面もあったが、その後は1200円台前半中心の動きで、もう一つパッとしない。
いずれにせよ、「車載半導体の『特需』後を見据え、付加価値の高い製品をいかに創出できるかが勝負」(アナリスト)になる。
「いつ買われる側に転じてもおかしくない」
今回を含め、売上高7000億円規模のルネサスが年商に匹敵する巨費を投じて買収を繰り返すのは、半導体業界で生き残りをかけた再編が進んでいるという背景がある。
20年後半だけでも、米中堅のマーベル・テクノロジー・グループが同業の米インファイを100億ドル(約1兆400億円)で買収すると発表(10月)、中央演算処理装置(CPU)大手の米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)が350億ドルで米ザイリンクスを買収すると発表(同)、米エヌビディアが最大400億ドルを投じ、ソフトバンクグループから英アームの株式を取得することで合意(9月)、米アナログ・デバイセズ(ADI)が約210億ドルでマキシム・インテグレーテッドを買収すると表明(7月)といった具合だ。
こうした大型案件には、米国による中国に対する先端分野での規制、具体的には華為技術(ファーウェイ)に対する事実上の取引制限などで今後のビジネスへの不透明感が高まるなか、規模を拡大するとともに、米国企業などとの取引の比率を高め、政治リスクをヘッジしたいとの思惑があるとされる。
また、買収する側は株価の上昇を活用し、自社株との交換により低コストで買収を進めているのもほぼ共通する。
これに対し、ルネサスは規模、業績などで見劣りするのは否めない。韓国サムスンがルネサスを買収候補に挙げたとも報じられており、「捨て身ともいえる買収を続けるルネサスも、いつ買われる側に転じてもおかしくない」との声が業界関係者から聞こえる。