高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
悪質「組織ぐるみ」の総務省接待 なぜ全額自腹にしなかったか悔やむだろう

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   菅義偉首相の長男が勤務する衛星放送関連の企業が、総務省の幹部らを接待したことが問題になっている。

   総務省は2021年2月24日、関係者の処分を公表したが、それによれば、接待を受けて処分された官僚は11人で、延べ30回を超えていた。

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どうしても飲食したいなら、自腹で割り勘なら接待にならないのでいい

   率直にいえば、20年以上前には、どこの省庁でもよく見られた許認可官庁と対象業者間の関係だ。なお、1998年に発覚した大蔵省スキャンダルでは、大蔵省官僚4名が収賄の疑いで逮捕されたほか、内部調査の結果、112人が処分を受けた。

   この大蔵省スキャンダルを契機として、1999年に国家公務員倫理法が公布、2000年に施行された。

   ざっくり公務員の感覚をいえば、それ以前の接待は収賄の対象で、その相場はおおむね100万円。100万円を超えると、収賄で逮捕されるが、それ以下ならまあ許されるという感覚だった。実際、大蔵省スキャンダルでは公務員も何人か逮捕されているが、それらは100万円以上の接待を受けていた。もっとも、100万円という当時の相場は、官僚側が勝手に思っていた数字であり、何も根拠もない。実際には、社会通念で変わりうるので、今なら50万円とかもっと低いかもしれない。

   100万円未満はいいとなると、社会通念とずれるので、国家公務員倫理法が作られ、5000円以上の利益供与があれば届け出ること、特に飲食では1万円以上を届け出るとされた。ということは、100万円未満の接待でも、1万円以上は事実上禁止だ。どうしても飲食したいなら、自腹で割り勘なら接待にならないのでいいとなった。

今回の接待問題、組織ぐるみという点ではかなり悪質

   筆者は、国家公務員倫理法の施行時に海外にいたので、帰国したら浦島太郎になると思い、国家公務員倫理法・倫理規定の資料を何度も読み返した記憶がある。

   国家公務員倫理法の施行により、かつての接待はなくなったとされていたが、今回の総務省接待問題は、それに反し組織ぐるみという点ではかなり悪質だ。

   しかも、自腹を切らないという点でセコい。今回総務省の処分を退職後ということで免れた人もいるが、飲み会の誘いは断らないということで有名だという。毎回自腹で断らないなら立派だが、おごってもらう接待を断らないというなら、何を言っているのかわけわからない。

   ある人は、本件は贈収賄の可能性があるので、菅首相の息子にも責任があるといっていた。総務省内部調査では、一人当たりの接待額は10万円程度なので、100万円というかつての相場ではないといっても、これで贈収賄の立件は難しいだろう。

   ある人は、首相の息子に誘われたら官僚は断れないと批判したが、利害関係者であっても会食がいけないのではない。おごってもらう接待がいけないのであって、自腹で割り勘であれば事後に会食事実を役所に報告しておけばいい。

   処分を受けた官僚のうち高ランクの者は、これ以上の出世は難しいだろう。ただ飯が高くついた。今回処分を受けた者の中には、一部自腹を切っていたが、なぜ全額自腹にしなかったのかを悔やむだろう。そして、公務員を退職しても、すぐには天下りも難しい。しかし、ほとぼりが冷めるのをまって、それなりのところに再就職できるだろう。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。


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