「バイデンが福島の井戸に毒を投げ込んでるのを友達が見ました!」
2021年2月13日午後11時8分頃に福島県沖を震源とする最大震度6強の地震が発生した直後、ツイッター上に投稿された「デマツイート」だ。広く拡散され、「差別煽動」だとする指摘もあがるなど、物議を醸した。
なぜ、荒唐無稽とも思える「デマツイート」が拡散されてしまったのか。専門家は、拡散したユーザーに「愉快犯」的な動機があったのではないかと指摘する。
投稿者は「反射神経でツイートしたジョーク」と説明
「悪質な差別煽動。皆さん通報しましょう」
ITジャーナリストの津田大介氏は2月14日未明、「井戸に毒」投稿を引用リツイートする形で、こう呼びかけた。朝日新聞の17年9月1日夕刊と2日朝刊の報道によると、1923年9月1日に発生し、関東大震災を引き起こした巨大地震では、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」という流言が拡散。その結果、自警団が朝鮮人を殺害するという事件が各地で発生した、とされている。津田氏から指摘を受けた投稿者は、14日中に「地震で興奮して反射神経でツイートしたジョーク」と反論したが、その後、アカウント自体が閲覧できない状態になった。
ツイッター上では当時の事件を揶揄する、人種差別的な投稿だとして批判的な声が相次いだ。しかし、一部ユーザーからは「ネタツイをネタだと受け取れない人が多すぎ」「井戸に毒を冗談でも笑えない人間、どうやってツイッターやってるんですか?」と、投稿者を擁護する声も聞かれた。「井戸に毒」をツイートした投稿者は津田氏からの指摘を受けた後、投稿の真意をこう説明していた。
「朝鮮人井戸毒デマを流す人間をバイデン松屋食い逃げでミームで茶化すようなたてつけになっていませんか?」(原文ママ)
投稿者が言及した「バイデン松屋食い逃げ」とは一体なんのことなのか。実は地震が発生する直前まで、「アメリカのジョー・バイデン大統領が松屋で食い逃げをしていた」というミーム(ネタ)がツイッター上で流行していた。
コラ画像など拡散された「バイデン松屋で食い逃げ」
この「流行」がいつ生まれたかは定かではないが、2月3日には「立命館大学出身のジョー・バイデンは5Gを使って松屋で食い逃げをするらしい」、2月5日には「ジョー・バイデンさんが松屋 立命館大前店で食い逃げしているのを見た」とする「ネタツイート」が投稿されていた(いずれも現在は確認できない)。
こうした「バイデン氏」と「松屋」を結び付けた「ネタツイート」は一部のツイッターユーザーの間で楽しまれていたようだが、2月12日にはツイッターの検索欄で「バイデン」と打つと、「松屋」「食い逃げ」がサジェストに表示されるようになった、とする投稿が続出。その後、バイデン氏が松屋で食い逃げをするコラージュ画像が投稿されるなど、ツイッター上は「大喜利状態」となった。
2月5日に「食い逃げしているのを見た」とツイッターに投稿していたユーザーは、ミームが広がったことについて、12日に自身のものとみられる「note」で、「内輪ネタのつもりで(やった)」「ここまで大事になるとは思いませんでした」(現在はページを確認できず)と投稿している。
「松屋で食い逃げ」ミームが流行を見せていた最中、大地震が発生した。すると「バイデン」「地震」の2つのキーワードを結び付けるようなツイートが投稿・拡散された。具体的な内容は、前述の「井戸に毒」のほか、「バイデン氏が起こした人工地震」だとするものだった。
こうした「デマツイート」を拡散したユーザー心理とはどういうものなのか。インターネット文化に詳しいITジャーナリストの井上トシユキさんは、2月19日のJ-CASTニュースの取材に対し、次のように語った。
「災害時にデマやフェイクニュースを拡散する人には2つのタイプがある。一つはその情報を本当に信じてしまっているタイプ。そしてもう一つは、『愉快犯』的な動機を持っているタイプです。たとえヘイト的な要素を含むツイートでも、のべつ幕なしに拡散をして、それに真面目に反応する人を『ざまあみろ』とあざ笑う。今回の拡散は、後者にあたるのではないかと思います」