電気を取り出せる「安心感」を届けたい 「三菱のPHEV」が被災地に向かう理由

提供:三菱自動車

暑さの中「救い」となったのは...

   町の要請を受けて、鋸南苑に向かった金子さんのチーム。約80人が入居するこの施設は、どのような状況に置かれていたのか――。

   当時の施設長だった前田さんに話を聞くと、鋸南苑では9日午前2時頃に停電。台風で別館の建物2、3階の窓ガラスが割れたが、人的な被害はなかった。そして夜が明けるにつれ、照明、エアコン、テレビ、エレベーターなどが使えないと判明。停電でポンプが使えないため水が送れず、トイレはバケツに水を汲んで流していた。

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台風15号における三菱自動車の動き(図表はJ-CASTニュース作成)

   停電で外部との連絡手段がほとんどなく、「この日は孤立していた」と前田さん。いつかは復旧するだろうと考えていたが、なかなか見通しが立たず、不安な思いを抱えていた。施設のデイサービスはいったん休業せざるを得なかった。

「12日になって、ボランティアの皆さんやテレビ取材が来ました。その中で三菱自動車さんが来てくださって、『電力を供給できる車(PHEV)を2台配備できますよ』という話をいただきました。想定していなかったありがたい対応です。本館・別館に1台ずつ車を配備し、共用フロアの冷蔵庫、テレビ、電子レンジが使えるようになりました」(前田さん)

   2か所にある2階の共用フロアに延長コードを伸ばし、家電と車をつないだ。三菱自動車の金子さんは「冷蔵庫に電気が通った時はスタッフが集まり、拍手が起きた」と話す。

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延長コードで2階の共用フロアとPHEVをつなぐ(提供:三菱自動車)
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車内のコンセントにつなぎ、スイッチを押すだけで給電できる(提供:三菱自動車)

   奥山さんは三菱自動車の社員の中で鋸南苑に最も長く滞在。PHEVを使った給電だけでなく、トイレに水を運ぶ、配給を手伝う、職員に発電機の使い方を教える、といった協力も行った。

   奥山さんは、その時の心境を、「お役に立てることは何があるのだろう、と考えながら行動していましたね。職員の皆さんも不安だったと思いますので、『何かできることはありませんか?』というお声がけは常にしていました」と振り返る。

   また、鋸南苑の前田さんは三菱自動車のサポートに対し、

「暑い中エアコンも電気もつかず、状況がわからない利用者もいました。その中で、冷蔵庫で冷やしたものや、共用フロアでテレビを利用者に提供できたのは救いだったと思います。仮に、これがなかったとしたら、サービスを十分に提供できないことになりますので」

と語る。

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PHEVとつないだ共用フロアのテレビ。施設利用者に一時の安らぎを提供した(提供:三菱自動車)

   残暑が続く9月中旬。台風の影響でシフト通りに来られない人もいる中、現場の職員は利用者をうちわで扇ぐ、お風呂に入れない代わりに体を拭くなどして懸命に対応した。エレベーターが使えないため、1階の厨房から食事を運ぶのも大変だったという。

   三菱自動車の社員は4日間、交代しながら泊まり込みでサポート。前田さんは、

「最後まで具合の悪い方を出さなかったというのが誇りです。今回のことで、PHEVは一般家庭でも、災害時に最低限の生活を送るのに十分対応できるものだと思いました。施設を運営する法人内でも『いい能力の車がある』と話題にしました」

と話している。

   三菱自動車のチームは15日の夕方、電力会社の移動電源車が到着するのを見届け、引き上げた。鋸南苑の停電が解消されたのはそれから4日後の19日夕方だった。

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