電通本社ビル売却と「2023年問題」 テレワーク定着でこれから起きるコト

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   電通グループの本社ビル(東京都港区)売却検討が注目を集めている。2021年1月に「検討している」と発表し、売却額は国内のビル取引として最大級の3000億円規模になる見通しだ。直接的には赤字決算続きの経営不振を受けた財務基盤強化策という電通固有の事情だが、背景にはテレワークの定着で広いオフィスが必要なくなってきたこともある。東京都心のオフィスの空室率はジワジワ上昇しており、コロナ禍による働き方の変化がオフィスの需給にボディーブローのように効いているようだ。

   電通本社ビルは地上48階・地下5階建て、高さは約210メートル、延べ床面積約23万平方メートル。東証上場翌年の2002年、JR新橋駅に近い汐留地区に完成、約60の飲食店などからなる商業施設「カレッタ汐留」が入っている。ビルで勤務する電通社員は9000人を超えるが、現在はテレワークで出社率は2割程度という。コロナ禍が収束しても、テレワーク活用の流れは変わらないと判断している。

  • 在宅勤務の定着とオフィス需要の関係が…(画像はイメージ)
    在宅勤務の定着とオフィス需要の関係が…(画像はイメージ)
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電通以外にも売却の動き

   売却先として、不動産大手のヒューリックが有望視され、条件を詰めているとされるが、電通は売却後も本社として賃借して使う方針。ただ、使用面積は半分ほどに圧縮する方向という。

   電通はネット広告の台頭で、既存のテレビや新聞を中心とした主力の広告事業が苦戦し、2月15日に発表したグループの2020年12月期連結決算は最終損失1595億円と2期連続の赤字だった。特に、国内の低迷を挽回すべく海外で積極的に資本提携やM&A(買収・合併)に取り組んだものの、期待した成果を生んでいない。

   電通と言えば深夜残業当たり前の「ハードワーク」の代名詞でもあったが、過労死で勤務見直しに取り組む中でコロナ禍に見舞われた。2020年2月に社員に感染者が出るといち早く、全社的に在宅勤務に切り替えたことで、働き方改革が加速した。その結果として本社オフィスが過剰になったことが、今回の売却方針につながった。

   本社ビル売却としては2020年12月、音楽大手のエイベックスが、東京・南青山の「エイベックスビル」の売却を発表した。売却先はカナダの不動産ファンドとみられ、電通と同様、売却後は賃借で引き続き本社として使う方針という。アパレル大手の三陽商会も東京・銀座の旗艦店ビルを売却した。

空室率が上昇

   これら3社のケースは、業績悪化に伴うリストラという側面が強い。ただ、電通は、働き方改革、とりわけテレワークの拡大も一因で、そうしたオフィス削減や都心離れの動きも顕在化している。富士通は2023年3月末までに国内オフィス面積の半減を打ち出し、東芝も3割削減を検討している。パソナグループは24年までにグループ全体の管理部門で働く1800人の3分の2を兵庫県・淡路島に移すと発表している。

   こうした「構造的」問題の影響は不明ながら、コロナ禍による景気低迷の影響はすでに広がっている。仲介大手の三木商事によると、東京ビジネス地区(千代田、中央、港、新宿、渋谷の都心5区)の空室率は、2019年12月に、空前の1.55%まで低下したのを底に、コロナ感染拡大に伴って上昇に転じ、小幅低下した20年2月を除き、3月から11カ月連続で上昇中。6月1.97%、8月3.07%、10月3.93%、そして21年1月には4.82%となっている。

   平均賃料(1坪当たり)は2020年6月の2万2880円をピークに低下し始め、21年1月は2万1846円。賃料の絶対水準としてはなお低くはないが、需給の均衡が崩れる目安とされる空室率5%がなお遠い時点で下落に転じた。「昨夏以降、テレワーク拡大など先行きを懸念して早めにテナントを確保しようと賃料を下げた中小ビルが見られた」(業界関係者)という。一方、ある都心の大手ビルは「リーマンショック後に大テナントに解約され空室率が10%を超えたが、今はまだ、空室が出ても引き合いは根強い」という。

   中期的には、2023年に森ビルが東京・麻布台に高さ330メートルの超高層ビルを完成させる予定で、業界では他のビルを含め供給が急増する「2023年問題」と呼ばれている。

   テレワークの拡大を含め、都心のオフィスの需給の行方はなかなか見通せないが、サテライトのシェアオフィスの展開を始めた三井不動産のように、コロナの収束をにらんだ取り組みが待ったなしのようだ。

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