女性蔑視発言で引責辞任を表明した森喜朗会長(83)の後任人事が混迷している。後任選出にあたり東京五輪・パラリンピック組織委員会は「候補者検討委員会」を立ち上げ、2021年2月16日に第1回会合が行われた。森氏が辞任を表明して以降、多くの候補者の名がメディアで取り上げられており、後任選出に世間の注目度は高まっている。
新会長に必要な資質とは...
ここまで元アスリートを中心に複数の候補者が浮上しているが、そのなかで有力視されるのが、組織委のスポーツディレクターを務める小谷実可子氏(54)だ。その一方で橋本聖子五輪相(56)を推す声も強く、ここにきて日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長(63)が候補として急浮上。JOC会長と組織委員会会長の兼任案が出ているという。
東京五輪・パラリンピックの「顔」となる新会長には何が求められるのか。組織委員会の武藤敏郎事務総長は新会長に必要な資質について「五輪・パラリンピックに何らかの経験があること。ジェンダー平等やダイバーシティなどについての認識が高い方」としている。
森会長の後任が有力とされる小谷氏は、1988年ソウル五輪にシンクロナイズド・スイミング(現アーティスティックスイミング)代表として出場。開会式では日本選手団の旗手を務め、競技ではソロ、デュエットで銅メダルを獲得した。選手として国際舞台での経験が豊富で、現役引退後はJOCの広報員を務めるなどアマチュアスポーツの発展に尽力してきた。
小谷氏は英語が堪能で、国際オリンピック委員会(IOC)の役員と円滑にコミュニケーションをとることが可能である。現役時代の実績に加え、引退後の五輪・パラリンピックへの貢献度などからニューリーダーとしての資質は十分だろう。その一方で政界との目立ったパイプがないと指摘する関係者もおり、不安要素のひとつでもある。
7年前の「セクハラ騒動」が橋本氏のネックに
小谷氏の対抗馬とされる橋本五輪相は、夏季(自転車競技)・冬季(スピードスケート)両方の五輪に出場した経験を持ち「五輪の申し子」と称された。1992年アルベールビル冬季五輪では、女子スピードスケート1500メートルで銅メダルを獲得。現役引退後の95年に政界に進出し、国会議員を務めるかたわら日本スケート連盟会長、JOC理事を歴任した。
IOCとJOCに加えて政界に太いパイプを持ち、選手としても十分すぎるほどの実績を持つ橋本五輪相だが、大きなネックとなりそうなのが過去、週刊誌で報じられた「セクハラ騒動」だ。
橋本五輪相の「セクハラ問題」について2014年8月20日発売の週刊文春(同年8月28日号)が報じた。同年2月に開催されたソチ冬季五輪の閉会式後に選手村で開かれた打ち上げパーティーで、当時日本選手団団長だった橋本氏がフィギュアスケート男子の高橋大輔選手に抱きつきキスをしたというもの。高橋選手は橋本氏の「パワハラ」、「セクハラ」を否定したが、一連の騒動は世間の注目を集めた。
また、森会長の後任として小谷氏、橋本五輪相が有力視されるなか、候補者として急浮上したのがJOCの山下会長だ。1984年ロサンゼルス五輪の柔道男子無差別級を制して金メダルを獲得。現役引退後は全日本柔道連盟の要職を歴任し、柔道の普及、振興に努めた。13年にJOC理事に就任し、19年6月に会長職に就き、20年1月に圧倒的信任を得てIOC委員に選出された。
山下氏は延期決定時に蚊帳の外に
このように山下氏の引退後の経歴は組織委員会の新会長として申し分のないものだが、関係者の間で不安視されているのが「発言力」だ。
昨年3月に東京五輪・パラリンピックに延期が決定。延期を決定するにあたり、首相官邸に安倍晋三首相(当時)、菅義偉官房長官(当時)、橋本五輪相、森会長、小池百合子都知事が集まりIOCのトーマス・バッハ会長と電話会談が行われたが、この席に山下会長はいなかった。山下会長は蚊帳の外に置かれ、発言の機会すら得ることが出来なかった。
森会長の「女性蔑視発言」は海外メディアによって大々的に報じられ、IOCが声明を発表する事態にまで発展。森会長の引責辞任の経緯から新会長の選出は慎重に進められるとみられ、なおかつ「透明性」が求められる。東京五輪・パラリンピックの新たな「顔」となるのはどの候補者か。日本国内だけでなく世界的に注目を集めている。