新型コロナウイルスとの長期戦を誰もが覚悟するようになり、コロナ禍による消費行動の変化は一時的ではないことが分かってきた。消費者向けのビジネスを展開する企業は経営戦略の立て直しを強いられており、女性向け商品を扱う2社が2021年2月3日にそれぞれ発表したリストラ策は、コロナ禍を象徴する内容だった。
俳優・モデルをCM起用したブランドを売却
化粧品最大手の資生堂が決めたのは、SMAPのCM楽曲が印象に残るヘアケア商品「ツバキ」を含む日用品事業の売却だった。男性用ブランド「ウーノ」やボディーケアブランド「シーブリーズ」も含まれ、いずれも一線の俳優やモデルをCMに起用して知名度のあるブランドばかり。これらを1600億円で欧州系投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに売却する。CVCの子会社が設立する新会社に事業を譲渡し、資生堂はCVC子会社の株式の35%を取得して当面は関与を残す形を取る。
「プロ経営者」として知られる魚谷雅彦社長の下、2019年12月期には過去最高の735億円の連結最終利益をたたき出した資生堂も、コロナ禍では苦戦を強いられている。外出自粛やテレワーク、マスク着用などの影響で化粧品の使用が減ったほか、土産物として買い求める訪日客のインバウンド需要が激減したため、2020年12月期には116億円の連結最終損失を計上し、経営の立て直しが急務になっている。
そこで連結売上高の1割程度に過ぎないものの、CMなど広告費がかさむこともあって構造的に低収益の日用品事業を切り離し、収益性の高い高価格帯の化粧品に経営資源を集中することを決断したのだ。魚谷社長は記者会見で「グローバルな環境をみて、化粧品に選択と集中をする」と語った。日用品事業ではシャンプーなどで新興ブランドとの競合が激しくなっており、ドラッグストアで安売りされることも低収益の要因になっている。
アパレル界も苦戦強いられる
もう1社は、2020年8月に続いてリストラ策を発表したアパレル大手のワールドだ。百貨店を中心に展開する「スーナウーナ」「ジェット」など7ブランドからの撤退とともに、店舗閉鎖と希望退職募集を発表した。前回に発表した分と合わせると廃止ブランドは12に達し、店舗も全体の3分の1に当たる約700店を2年間で閉めることになる。
アパレルではワールドに限らず、オンワードホールディングスや三陽商会も苦戦を強いられ、老舗のレナウンは経営破綻した。その要因は、既に時代遅れだったビジネスモデルがコロナ禍で一気に崩壊寸前といえる状況に追い込まれたからだ。流行を予想して事前に商品を製造し、売れ残りをバーゲンでさばくスタイルを長年続けてきたアパレル大手は、百貨店の集客力低下やユニクロなどの台頭によって従来からジリ貧の様相を呈していたが、コロナ禍で大量の売れ残りが発生して虫の息になった。
コロナ禍で一変した消費行動によって恩恵を受けている企業がある一方、このように厳しい立場に追い込まれて身を切る改革に踏み切る企業も少なくない。ワクチン接種の進展も含めた感染拡大の動向をにらみながら、企業経営者は引き続き厳しい舵取りを迫られる。