不動産情報サイト「LIFULL HOME'S」(ライフルホームズ)は2021年2月9日に「2021年住みたい街ランキング」を発表し、首都圏の「借りて住みたい街」1位に「本厚木」(神奈川県厚木市)が選ばれた。
コロナ禍で「郊外化」の傾向がみられる中、都心へのアクセス性が評価されたというが、インターネット上では「なんで本厚木?」と首を傾げる声もある。専門家は今回の「本厚木1位」の結果をどう見ているのか。
ランキング「『郊外化』の傾向が鮮明に」
今回発表の「住みたい街ランキング」は、「LIFULL HOME'S」に掲載された物件のうち、問い合わせの多かった駅名を集計する形で算出されている。首都圏版の「買って住みたい街」1位は、2年連続で「勝どき」(都営大江戸線、東京都中央区)だった。
一方、「借りて住みたい街」1位だったのは、小田急線の「本厚木」。19年に11位、20年に4位と徐々にランクをあげていた中で、ついにトップに躍り出た。今回のランキングでは他にも「千葉」(6位)や「柏」(9位)、「町田」(14位)といった郊外の駅がランクインした一方で、前年まで4年連続「住みたいまち1位」だった「池袋」が5位に後退。
この結果について、LIFULL HOME'S総研副所長チーフアナリストの中山登志朗氏は9日の発表資料の中で、「準近郊・郊外でも都心方面へ乗換なしでアクセス可能な路線沿いの駅に多くの人が関心を寄せるという『郊外化』の傾向が鮮明になりました」と分析している。
1位の「本厚木」について見ると、本厚木駅(小田急線)は人口約22万人を数える厚木市の代表駅。駅には大型の駅ビル「本厚木ミロード」が併設され、駅前には商業施設や繁華街も立地。「厚木バスセンター」からは市内外へ向けて多くのバスが発着するなど、神奈川県央の拠点エリアとして発展を遂げてきた。家賃相場は1LDKで6万8890円(LIFULL HOME'S、20年)と、都内と比べて安いのも特徴だ。
厚木市の小林常良市長は発表資料の中で、新宿駅まで乗り換えなく1時間でアクセスできる点、丹沢山系など豊かな自然環境、観光資源にも恵まれた点を挙げ「自然と都市が調和した暮らしやすさがランキング結果に表れたものと感じています」とコメントしている。
駅前の「衰退」指摘は「一面的な見方」
とはいえ、インターネット上では「本厚木1位」に対し「なんで本厚木?」「ピンとこない」という声もあがっている。専門家は今回のランキング結果をどう見ているのか。首都圏のまち事情に詳しい「まち探訪家」の鳴海侑さんは2月10日、J-CASTニュースの取材に対し、ランキングがユーザーの「物件問い合わせ数」を集計して作られているとした上で、以下のように指摘した。
「これまで4年連続1位だった池袋が後退し、東京都外の駅が上位に来たのは、コロナ禍で東京都内の転居と東京都への転入超過が減る中で、周辺の神奈川が横ばい、千葉が増加になったことによる相対的な結果だと考えられます」
「前年から大きく順位を上げた駅には木更津(141位→41位)、五井(86位→46位)、茅ヶ崎(134位→62位)といった駅があります。いずれも工業地帯が付近にある駅です。1位の本厚木駅がある厚木市は『東京のベッドタウン』と捉えられがちですが、多くの工場が立地する工業都市でもあります。首都圏全体で人口移動が滞る中、工場で働く人などの住宅需要に大きな変化がなかったことも、今回の結果につながった一因なのではないでしょうか」
また、本厚木駅前にはかつて多くの大型商業施設が立地していたものの、近年はパルコ(08年閉店)、イトーヨーカドー(17年閉店)が撤退。相模川を挟んだ隣市・海老名で「ららぽーと」(14年出店)、「ビナガーデンズテラス」(17年出店)などの大型開発が進んでいたのとは対照的で、本厚木の「衰退」を指摘する声も出ていた。
ただ、鳴海さんは「厚木市民が小田急線を使って、海老名や町田など、より商業的に賑わっているまちへと足を運んだ結果なのだと思います。大型店の閉店が相次いだことに関しては、各事業者がたまたま閉店政策を進めていたタイミングだった、というのもあると思います。ミロード(本厚木駅ビル)などは今も多くの人で賑わっています」と指摘。本厚木の衰退は「一面的な見方なのではないでしょうか」と話した。