個人情報の保護を巡り、米アップルと米フェイスブック(FB)の対立が激化している。米メディアによると、アップルのスマートフォン(スマホ)iPhone上などで今春に始まるネット広告の新たな規制について、FBがアップルを反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで提訴する準備を進めているといわれ、双方のトップが公然と非難し合う事態になっている。
アプリによる追跡を許すかどうか
iPhoneなどアップルの機器は全世界で16億5000万台に達し、FBやグーグルはその機器上で無料のサービスを提供する「共存関係」にあった。それが一転、対立することになった発端は、アップルが2020年6月、プライバシー保護策強化のため、iPhone 上などでアプリによる追跡を許すかどうか、利用者に事前に同意を求めるようにする方針を発表したこと。同年秋の基本ソフト「iOS 14」リリースに合わせて実施する計画だったが、アプリ業者などへの周知を考慮し、2021年春に延期していた。
何が、どう問題なのか。FBやグーグルは、SNSや検索の無料サービスを提供する一方、利用者の利用履歴や好みなどのデータを集め、これをもとに企業の「ターゲティング広告」を出して広告料を得るという事業モデルだ。この際、利用者の端末から「広告識別子」と呼ばれる情報を取得し、他のアプリやウェブサイトにまたがって追跡してデータを得る。
アップルは、この「広告識別子」の取得について、利用者の同意を得るように義務付けようというのだ。具体的には、iPhone上でFBなどのアプリを開くと、「このアプリが、あなたの利用履歴を他のアプリやウェブサイト上でも追跡することを許可するか」といった通知が出て、利用者が諾否を選ぶことになるとみられる。iPhoneのiOSの春以降のアップデートで、同意を求める仕組みにするという。
新たな規制により、広告識別子の取得を拒否する人が増えれば、ターゲティング広告の「精度」が落ち、効果的な広告が出しにくくなる。広告が減ればFBの糧道は細る。
仮に、広告で稼ぐ前提でアプリ自体は無料で利用できるというFBなどの仕組みが難しくなっていけば、アプリ開発者は無料から有料に切り替えるかもしれない。そうなると、iPhone上のアップストアを通じたアプリの販売額に応じて15~30%の手数料(通称アップル税)を受け取るアップルにとっては収益確保の機会が広がることになる。