外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(33)バルセロナで豆腐店経営の元朝日記者が語るスペイン第2波の現場 

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欧州で最も厳しい外出禁止令

   清水さんによると、昨年3月15日から実施された外出禁止令は、欧州でも最も厳しい措置だった。

   外出が許されるのは、食料品や生活必需品の買い物、病院への通院、お年寄りや障がい者の介護、銀行での引き出しなどだ。

   犬の散歩は良いが、人間だけの散歩、ベンチでの休憩、葬式や結婚式も許されない。

   すべての市民は、氏名と住所、納税者番号、外出理由を書いた書類を携行しなければならない。警察官があちこちで検問し、この外出理由の書類通りかどうか、目を光らせた。

   違反すれば100ユーロ(約1万2000円)から6万ユーロ(約720万円)の罰金、悪質な場合は1年間の禁固刑が課される。欧州で最も厳しい罰則だ。

   気候が良くなり、自宅に籠もるのが辛い季節だったせいもあるだろうが、規則を破って外出する人が続出した。罰金を科せられた人は全国で25万人にのぼったという。

   しかし、新聞やテレビを見ても同情する声はなかった。規則を緩めるべきだという提言も見かけなかった。ほとんどの市民は黙って耐えた。店も事業所も閉店の指示に従った。

   厳しい外出禁止令が守られたのは、おそらく2つの理由からだろうと清水さんは言う。

   一つは感染者と死者が恐ろしい勢いで増え続けたことだ。外出禁止令が出た時点で感染者は全国の累計6900人余だったが、1週間後には2万7000人と4倍になった。2週目はさらに増え方が激しくなり、3月30日には一日の新規感染者が9200人にのぼった。「明日は我が身か」と切迫した恐怖感にかられた人が多かっただろうという。

   加えて、家族の絆の強さが際立った。3月末の死者の総数8189人のうち、9割は70歳以上の高齢者。若者や働き盛りの世代代の死亡率は極端に低かった。

   だがスペインでは家族の結びつきが強く、クリスマスイブには祖父母を訪ねて一緒に郷土料理を味わう習慣が根強い。イブは商売にならないからと閉店するレストランがかなりあるほどだ。若い人々も他人事と考えず、「じいちゃんやばあちゃんが危ない」と受け止める。危機感は世代を超えて共有された。

   二つ目の理由は、十分ではないにせよ経済的な救済策が決まったことだろうと清水さんは指摘する。

   外出禁止令から8日目、75%以上収入が減った自営業者に対し、それまでの収入の70%を国が補償するという発表があった。中小企業が従業員への給与支払いのために銀行から借り入れる場合、その80%を国が保証することも決まった。企業に対してはコロナ禍を理由にした解雇を禁止した。小規模業者や個人の家賃は支払いの猶予が認められ、家主が借りた人を追い出すことを禁止した。電気、ガス、水道代の支払い猶予も認められた。

   スペインでは集合住宅の管理組合に雇われて掃除の仕事をする女性が大勢いる。いくつかの集合住宅を掛け持ちし、雇用契約がはっきりせず、労働保険に入っていない人も多い。こうした弱い立場の人も、それまでの収入の70%が国から支払われることになった。

   救済策には細かな条件がついていて、申請の手続きは簡単ではない。しかし、スペインには行政書士、会計士、税理士、社会保険労務士を兼ねたような「ヘストール」と呼ばれる職業があり、小さな商店や事業所も例外なく契約している。清水さんの豆腐屋も契約していた。このヘストールが救済策の申請を代行してくれるので、商店主や事業主は書類と格闘しなくても済む。厳しい外出禁止令のもとで平静がどうにか保たれたのは、こうした仕組みに負うところもあっただろう、と清水さんはいう。

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