外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(33)バルセロナで豆腐店経営の元朝日記者が語るスペイン第2波の現場 

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医療・福祉の削減が「崩壊」への序曲

   すでに見たように、債務危機と不動産バブルの直撃を受けて、スぺイン政府は大幅な公費削減を進めていた。もともと体力が弱っていた医療・福祉の現場をコロナ禍が直撃した。

   スペインでは小さな商店や事業所で働く場合も、雇用主と従業員が必ず労働契約を結ぶ。この契約には職種と1ヶ月の給与額が明記され、それによって健康保険、労働保険、年金という3つの社会保険料も決まる。

   社会保険の加入者は公立病院での医療費が無料となるので、庶民はみんな公立病院へ行く。救急医療や公衆衛生の引き受け手も公立病院だ。まさに国民の命と健康を守るその砦が、この10年ほど、人員と予算の削減で縮小を続けた。

   清水さんは、スペイン在住のジャーナリスト、宮下洋一さんの以下の報告を引用する。

   スペインは10年間で76億ユーロ(約9000億円)の医療費を削減し、首都マドリードでは約2000床のベッドが消え、3300人の医療従事者が職を失った。人口あたりの医師、看護師らの数は、英国、フランス、ドイツの半分にすぎない。せっかく公費でつくった病院もすぐ民間に売り飛ばされた。

   コロナ禍の前から、公立病院の惨状は誰の目にも明らかだった。診察してもらおうと思えば3時間、4時間待ちは覚悟せねばならない。救急患者でさえ放っておかれる。清水さんの奥さんは一昨年夏、右脚を痛めて歩けなくなり、昼過ぎに救急病棟に入った。清水さんが豆腐店を閉めて午後9時に見舞いに行ったところ、まだ廊下のベッドに寝かされ、診察も受けていなかった。医師も看護師も必死に仕事をしているが、数が少なすぎるのだ。

   一昨年暮れには、バルセロナで毎週のように、医師と看護師らがデモをして「人員を増やせ」「備品を充当せよ」「救急手当てを上げよ」と叫んだ。医療の現場はすでに、限界に近かったのである。

   コロナ禍は、揺らぐ天秤の片方の皿に、重い荷を載せた。

   マスクも防護服も人工呼吸器も足りない。集中治療室もわずかしかない。病院は大混乱に陥った。看護師らはゴミ用のポリ袋を絆創膏で貼り合わせた急ごしらえの防護ガウンを着て仕事をした。感染するのも当然だ。

   昨夏までスペインでは、約20万人の感染者のうち医療従事者が3万5000人に上った。ほぼ6人に1人の割合だ。医療従事者は、症状が治まったり隔離が終わったりすると、すぐに病院に戻り、仕事を続けた。その様子は新聞やテレビで報じられた。

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