外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(33)バルセロナで豆腐店経営の元朝日記者が語るスペイン第2波の現場 

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豆腐店の引継ぎ

豆腐店を引き継ぐ笹原さん夫妻(中央)と(2021年1月4日、左端が清水さん(C)清水建宇)
豆腐店を引き継ぐ笹原さん夫妻(中央)と(2021年1月4日、左端が清水さん(C)清水建宇)

   実は清水さんは、経営してきた豆腐店を今年1月1日付で笹原淳(47)・絵美(38)さん夫妻に引き渡し、ほどなく帰国する。笹原さんは仙台市で豆腐店を営み、2019年の全国豆腐コンクールで最優秀賞を得た「日本一の豆腐屋さん」だ。

   精神の持続力の衰えを感じた清水さんは、まだ元気なうちに後進に店を引き継いでもらいたいと、2019年暮れから後継者探しを始めた。何人かに打診したが途中で話が流れたため、全国豆腐組合連合会を通して後継者を募集し、笹原さんが応募したという。最後の年はコロナ禍に振り回されたが,その一年を振り返って清水さんはいう。

   「コロナ禍は、人間が自然や地球を破壊しながら成長をしてきた帰結の一つ。その意味では、地球温暖化や気候変動とパラレルな現象かもしれない。最近、環境問題で積極的に発言するようになった若者たちの中には、ベジタリアンをさらに進めたビーガン(完全採食主義)に共鳴する人も増えた。ドイツには、台風の名に由来するタイフーン社が世界有数の豆腐工場を操業し、欧州全域に輸出している。アメリカでは大豆、エンドウ豆由来の人工肉が広がり、この勢いは止まらないと思う。その意味で、豆腐には未来がある、と思っています」

   日本は欧州の後を追いかけるかのように昨春に第1波が訪れ、政府は緊急事態宣言を出して厳しい行動制限を呼び掛けた。だが、一時の小康状態を経て、やはり昨秋から感染がぶり返し、年明けには再度、緊急事態宣言を出して今に至っている。

   第一次の宣言下では、ウイルスの挙動も正体もよくわからず、不安や恐怖がまさっていた。第二次の今、私たちが抱えるのは、ウイルスの脅威そのものというより、もし行動や警戒を緩めれば、再び感染が、ぶり返すかもしれない、という「リバウンド」への不安だろう。かといって、経済・社会活動が停滞すれば、生活そのものが破壊されるかもしれない。そのジレンマが、今の「不安」の正体だ。

   今なすべきことは、こうすれば感染拡大を防げるという具体的な指示と、その制限への補償や支援を示し、医療・介護体制をはじめとする、最も高リスクな働き手を支えることだろう。感染が収束した後の景気浮揚策にお金を使うのではなく、今現在、困っている人、立ち行かなくなっている人を救い、支えることだ。そうした社会工学的な抑止策で感染拡大のカーブを抑え、ワクチン接種による社会的免疫のグラフと交差する点に、希望の光がともるだろう。全体の見取り図を示し、「希望」に向かって人心を一つにまとめる。その過程に参画する政治家やメディアの関係者に必要な資質は、「公正」「透明」「信頼性」に尽きる。

   清水さんから、日本に先行するスペインの話をうかがって、そんなことを考えた。

ジャーナリスト 外岡秀俊




●外岡秀俊プロフィール
そとおか・ひでとし ジャーナリスト、北大公共政策大学院(HOPS)公共政策学研究センター上席研究員
1953年生まれ。東京大学法学部在学中に石川啄木をテーマにした『北帰行』(河出書房新社)で文藝賞を受賞。77年、朝日新聞社に入社、ニューヨーク特派員、編集委員、ヨーロッパ総局長などを経て、東京本社編集局長。同社を退職後は震災報道と沖縄報道を主な守備範囲として取材・執筆活動を展開。『地震と社会』『アジアへ』『傍観者からの手紙』(ともにみすず書房)『3・11複合被災』(岩波新書)、『震災と原発 国家の過ち』(朝日新書)などのジャーナリストとしての著書のほかに、中原清一郎のペンネームで小説『カノン』『人の昏れ方』(ともに河出書房新社)なども発表している。

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