ベーシック・インカムの実施内容
コロナ禍は健康を損なうだけではない。雇用が不安定になり、低所得者の暮らしを直撃する。困窮者をどのようにして救済するか。注目されたのが「ベーシック・インカム」である。すべての国民に一律の金額を支給し、必要最低限の生活を保障する、というのが本来の意味だ。
スペイン政府は昨年6月、「ベーシック・インカム制度を実施する」と発表し、受付を始めた。全国民に一律支給するのではなく、政府が必要最低限の所得額を定め、それに届かない国民に差額を補償する仕組みだ。最低限の所得を、単身者は月額460ユーロ(約5万7500円)、5人世帯は1015ユーロ(約12万7000円)と定め、差額を支給する。政府が想定する対象者は250万人、費用は30億ユーロ(約3700億円)。企業の優遇税制を縮小し、新たなデジタル課税を導入して財源とする。一律支給でないもののベーシック・インカムと同様の所得補償制度であり、世界で初めての実施例として欧州各国や米国が注目している。
スペインは労働組合などが支持する社会労働党と、市民運動を母体にしたポデモス(スペイン語で「我々は出来る」)の連立政権だ。この所得補償制度はポデモス主導で進められたという。清水さんはこう話す。
「この制度が国民の窮乏化を食い止められるかどうか、まだ分からない。だが市民運動の成果の一つと言える。コロナ禍が収束した後の景気浮揚や支援を打ち出す日本の『Go Toキャンペーン』などより、はるかに現実的で有効な対策なのではないでしょうか」
清水さんによると、カタルーニャ州政府は現在も、外出制限などの措置を取り、14日ごとに更新している。主な項目は次の通りだ。
○通勤・通学などを除き、不要不急の郡への出入り制限
○緊急の場合を除き、午後10時~午前6時の夜間外出の原則禁止
○飲食店は午後4時半までの店内営業、持ち帰りは午後10時、デリバリーは午後11時まで。飲食店の客は30%に制限
○公共の場の会合は6人までとし、飲食は認めない
○ショッピングセンターや小売り店は客を30%に制限
○屋内外の文化活動は収容人数の50%、500人まで
○小中高校は通学を認めるが、大学はオンラインで講義
日本と比べ、きわめて細かく、具体的な指示といえるだろう。商店は平日営業を認めるが、週末は生活必需品販売や薬局、獣医師、自動車修理、ガーデニング、書店などに営業を限定するなど、業種や業態を絞って明示しているため、ルールは分かりやすい。
「警察は第1波のような厳しい取り締まりはしていない。今回は行政ペナルティはあっても罰則はなく、その意味では第1波よりも緩やかだ。それでも、人々は黙々と指示に従い、大きな抗議やデモは起きていない」
清水さんは、このコロナ禍を通して、初めて「ラテン気質」が何であるのかに、気づいたという。
「第一に、それは家族、とりわけお年寄りを大事にする文化などだと思う。州政府の指示を守るのも、お年寄りに感染させたり、死なせたりしたくない、という気持ちが根底にあるからだろう。そして第二は、明日よりも今日を大切に生きる、ということ。ラテンの人々は『いい加減』といわれることもあるけれど、彼らがこれだけ厳しいロックダウンを守っていることに、心底驚きました」