現金を扱わずに済む手軽さに加えて、コロナ禍で高まる非接触のニーズを追い風にして、もう一段の普及に弾みがついているキャッシュレス決済サービス。その中でも規格が乱立するスマートフォン決済サービスで2021年1月、サービスが一時停止するトラブルが立て続けに起きた。その経緯を検証すると、サービスを提供する事業者が直面しているジレンマが浮かび上がってくる。
1月26日正午ごろ、ツイッターに「FamiPayを利用できない」といった書き込みが相次いだ。FamiPayとはコンビニ大手ファミリーマートのグループ会社が運営する電子マネー(それを扱うスマホ決済サービスは「ファミペイ」)であり、ファミマの店舗以外にもドラッグストアや飲食店など利用できる店舗を続々増やしている。この日「利用できない」と書き込みがあったのは、「ケンタッキーフライドチキン」や「カレーハウスCoCo壱番屋」、ラーメンやギョーザが主力の「日高屋」といった飲食店ばかりだった。
「ファミペイ史上最大のお得なキャンペーン」
実は1月12日から「ファミペイ史上最大のお得なキャンペーン」と銘打った利用者還元策を展開しており、26日はFamiPayを使える飲食店で支払った半額分が還元されるキャンペーンの初日だった。半額還元を期待して食事や注文をした後、会計の段階になってFamiPayが利用できず、仕方なく他の方法で決済する事例が相次いでいたのだった。
運営会社は26日昼過ぎ、アクセス集中によって一時的に決済できない状況が発生したが、現在は復旧したとの内容をホームページに掲示。しかし、26日夜になって再び決済しにくい状況が起き、27日早朝5時以降のFamiPay決済(ファミマ店舗、オンライン決済以外の支払い)の停止に追い込まれた。半額還元キャンペーンの打ち切りも通知した。25日は一定額をチャージすればファミマ商品の無料引換クーポンをもらえる日だったため、「還元を期待してチャージしたのに使えないなんて」といった利用者の恨み節がSNSに書き込まれた。
29日20時ごろに復旧したが、ダウンロードが650万件を超える有力スマホ決済の支払い機能が、一部とはいえ2日半も停止したのは極めて異例だ。FamiPay決済の利用が集中したことでシステムに障害が起きたためで、プログラムを修正してサーバーの処理能力も増強したという。
決済インフラとして定着するか、時代のあだ花になるか
ファミペイはファミマにとってデジタル戦略の中核であり、販売促進のツールに利用するだけではなく、購買データを活用した新ビジネスにも乗り出そうとしている。そのためにもFamiPay決済をファミマ以外の店舗でも積極的に使ってもらおうとしており、「半額還元」のキャンペーンもそのためだった。しかし、トラブルによって裏目に出て、決済インフラとしての信頼性を損ねてしまった。
1月23日には、KDDIのスマホ決済「auPAY」が一時使えなくなるトラブルも起きていた。この日はキャンペーン実施日であったため、ファミペイと同様に利用数が大幅に増え、システムが耐えきれなかった模様だ。各社はキャンペーンを実施して利用者を囲い込もうとしているが、思い切ったキャンペーンを打つと利用数が急増してシステムに負荷がかかり、結果として不具合が起きれば利用者にそっぽを向かれかねない。決済インフラとして定着するか、時代のあだ花になるか。スマホ決済は岐路に立っている。