日本に本格的な証券の私設取引市場の時代が訪れそうだ。SBIホールディングス(HD)と三井住友フィナンシャルグループ(FG)が、2022年春にも、大阪に私設取引所(PTS)を開設する。大阪ではコメ先物などを扱う大阪堂島商品取引所(大阪市)が21年4月に株式会社に生まれ変わり、ここにもSBIが出資する予定で、SBI主導で関西を金融都市としてよみがえらせる動きが強まっている。
21年1月29日の発表などによると、SBI・HDが6割、三井住友FGが4割を出資し、3月に運営会社「大阪デジタルエクスチェンジ」(ODX、仮称)を設立。証券取引所を介さず売買できるPTSを1年後に稼働させる計画だ。
「東京に一極集中するだけではリスク」
PTSは「Proprietary Trading System」の略。旧来、証券は取引所集中義務があったが、1990年代の「日本版金融ビッグバン」の一環で98年にPTSが解禁された。一時は7社が参入したが、取引量が増えず撤退が相次ぎ、現在はSBIが49%出資するジャパンネクスト証券(東京)と、米ファンド系のチャイエックス・ジャパン(同)の2社が続けるものの、国内の株取引シェアは合わせて約8%にとどまり、東証が9割以上を占めている。
しかし、2020年10月1日の東証のシステム障害で株取引が丸1日停止するという前代未聞の事案が発生したことを受け、代替としてのPTSへの期待一気に高まっていた。
新たなPTSでは、東証のシステムを使わず、東証の営業時間外に稼働させることで、投資家の使い勝手を高める考えだ。既存の株式などの投資にとどまらず、新たな市場の開拓も目指す。具体的には2023年をめどに、仮想通貨で使われるブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用したデジタル証券「セキュリティトークン(Security Token=STO)」を扱うことも視野に入れている。既存の有価証券よりも小口で発行することができ、少額投資が可能になる。社債、不動産のほか、美術品、映画版権などのデジタル証券化を検討するとみられる。
こうした構想は、SBI・HDの北尾吉孝社長が、東証の取引停止のトラブル以前から語ってきたものだ。例えば2020年9月3日の日経新聞では、「日本の都市が国際金融センターの地位を獲得する最後のチャンス」と述べ、改めて大阪・神戸を国際金融都市とする構想を主張。香港国家安全維持法施行を念頭に、香港の金融機能を誘致しようというもので、「東京に一極集中するだけではリスク」とも指摘していた。この約1か月後に東証のシステムが止まった。北尾社長はまた、デジタル証券の取引所設立や、ブロックチェーンなどの技術を持つフィンテック企業の誘致を進める考えも示しており、今回のPTS設立構想は、こうした方針の具体化といえる。
政府の思惑は?
北尾社長は12月3日の産経でのインタビューでも同様の構想を語ったほか、大阪堂島商品取引所に15%程度出資する方針を表明。現在のコメ先物市場のほかに金融商品や海外農産品など先物以外の幅広い銘柄を取り扱う「グローバルな市場になってほしい」と述べている。
構想のように、海外から金融機関やフィンテックなど外資系企業や人材を集めるためには、税制優遇やビザの緩和などが必要になる。北尾社長は、大阪・神戸の国家戦略特区への指定を目指す意向を示しており、政府がそうした支援をどこまでできるかが、金融都市・関西の成否のカギを握っている。