外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(32) ジャーナリストのマーティン・ファクラーさんと考える日米メディアの「信頼回復」

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   2020年1月20日、米国にバイデン政権が誕生した。就任演説で新大統領が「今日は民主主義の日です」と強調したように、米国はからくも混沌を脱し、民主主義回復に向けて舵を切ったかに見える。民主主義の土台の一つであるメディアはどうか。

   日米メディア事情に精通するジャーナリストのマーティン・ファクラーさん(54)と共に考える。

  •                        (マンガ:山井教雄)
                           (マンガ:山井教雄)
  •                        (マンガ:山井教雄)

コロナ報道の問題とは

   ファクラーさんは米アイオワ州生まれでジョージア州育ち。ダートマス大時代に台湾に留学し、イリノイ大でジャーナリズム修士、カリフォルニア大学バークレー校で歴史学修士を得て1996年から日本でブルームバーグ、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)、AP通信の記者を務め、2005年からニューヨーク・タイムズ(NYタイムズ)東京支局に移って記者、09年から15年まで東京支局長を務めた。その後2年間、独立系シンクタンク「日本再建イニシアティブ」(現アジア・パシフィック・イニシアティブ)の主任研究員兼ジャーナリスト・イン・レジデンスとなり、アジア版副編集長としてNYタイムズに復帰。退任した今もジャーナリストとしてNYタイムズや「フォーリン・ポリシー」などに寄稿している。

   日本のメディアの在り方を問う「『本当のこと』を伝えない日本の新聞」(双葉新書)など日本語著書も多く、昨年も「フェイクニュース時代を生き抜く データ・リテラシー」(光文社新書)、「吠えない犬 安倍政権7年8か月とメディア・コントロール」(双葉社)を上梓している。

   東京在住のファクラーさんに1月15日、ZOOMで話をうかがった。

   昨年のコロナ感染拡大以来、ファクラーさんは米国ジョージア州と日本を何度か往復したが、仕事はほとんど在宅で済ませ、調査や取材もリモートに移行したという。

「前は1時間の会合の往復に2時間をかけるような生活だったが、今は移動の時間がなくなり、効率はいい。もともと今の仕事は、単独で調査をして分析し、レポートを書くことなので、性に合っているのかもしれない」

   だが、ジャーナリストしてファクラーさんは、これまで、もちろん現場を踏むことを当然の原則にしてきた。

   2011年の東日本大震災の直後には東北各地で現地取材し、迫真に満ちた数々の現地ルポを報告した。

   福島第一原発の事故が起きたあと、政府によって当初は「屋内退避」の指示区域、その後「緊急時避難準備区域」に指定された南相馬市原町区にも入り、当時の桜井勝延市長の訴えを世界に発信した。当時、国内メディアの大半は、政府による指示を守り、約2万人の市民が居残った原町区から退避していた。洋の東西を問わず、ふつうジャーナリストは、住民が難民や避難民となって逃げだす紛争地や被災地に向かい、残った人々や、逃げられない人々の現状を伝えるのが、本来の仕事だ。ファクラーさんはその原則通りのことをしたまでだ、という。

「今回の新型コロナウイルスも、福島第一原発事故後の放射能も、目に見えない点では同じです。ただ、コロナウイルスは人から人にうつり、他人にもうつしてしまう可能性がある、という点では違う」

   だが、事前に調べた知識と装備があれば、自らを守ることはできる。福島第一原発後ファクラーさんは、事前に専門家からマイクロシーベルトの測定法やリスクについて取材し、ウクライナ製の放射線測定器を持参して取材に入った。

「コロナも同じです。NYタイムズやロイターの記者は、最初に感染源になった中国の武漢に入り、長期に滞在して現地報告を送り続けた。移動制限はあったが、どうすれば安全かを専門家に取材し、防護手段を取れば、現地取材はできます」

   だが今回のコロナ禍でも、日本のメディア報道には、当局発表に依存せず、独立した報道機関として取材し、独自報道をする例があまりに少ない、とファクラーさんは指摘する。

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