顧客へのヒアリングによって当初プランを「捨てた」
プレゼンを経て、新規事業創出のプロジェクトとして本格的にスタートした2020年6月、小梶裕貴さん(海外マーケティング)、杉岡将伍さん(営業)にも声をかけてチームが結成される。新たに仲間となった2人も、もちろん、スポーツを愛してやまない。岩山さんと同期にあたる小梶さんは「新規事業に挑戦できる機会は滅多にない!」と意欲を燃やし、杉岡さんはスポーツビジネスへの興味に加え、過去にGCカタパルトでの活動経験があり、そうした知見も生かしていくことになった。

関西勤務の小梶さんは、まだ実際に川合さん・杉岡さんに会ったことがないという。
もっとも、前述のように当初は「プロスポーツをVRで楽しむ」というプランだったが、活動の過程でカタチを変え、現在はスポーツ動画の編集・配信サービス「Spodit」として提案する。このサービスは、スポーツの試合映像を編集し、配信するプラットフォームだ。主な顧客としては、ジュニアスポーツクラブの関係者を想定している。
具体的には、フィールドに設置したカメラが180度撮影し、その映像はクラウド上に保存。自動編集され、いつでもストリーミング再生できる。保護者は好きなシーンや特定の選手(自分の子ども)だけを見られるほか、離れて暮らす祖父母もオンライン上で楽しめるというわけだ。コーチにとっても、選手への指導、自チームや相手チームの分析などに活用できる。

なぜ、このように方向転換したのだろうか――。それは、メンバーが想定顧客へのヒアリングを通じて、いま世の中で求められていることは何か、顧客視点で真摯に考え抜いてきたからだ。岩山さんは次のように説明する。
「顧客ニーズのヒアリングを重ねていくなかで、ジュニアスポーツの場合はとくに、保護者が子どもの試合を観に行くのがけっこう大変だ、ということがわかってきたのです。たとえば、会場が遠いとか。暑い日、寒い日はまだ我慢できるとして、雨の日はちょっと大変だなとか。当初のプロスポーツ観戦の課題以上に、そんな生の声を聞いて、先に解決したい課題だと考えました」
こうしたより深い顧客ニーズを探りあてるのに尽力したのが、小梶さんと杉岡さんだった。
「想定顧客にあたることは、なによりも大切でした。そもそも顧客にあたらなければ、私たちが何をやればよいかわかりませんし、次のステップも見えてこないからです。顧客へのヒアリングにあたっては主にSNSを活用して、質問やアンケートを投げかけました。そのなかから興味を持ってくれた人にあたって、話を聞くようにしました」(小梶さん)
「新型コロナウイルスによる外出自粛もあって、なかなか現場には足を運べず、ほとんどがオンラインでのヒアリングでした。対面で話すのとは勝手が違って、コミュニケーションが難しかったです。会話がぶつかってしまうとか、微妙なニュアンスや意図をくみ取りづらくて......。そのときに工夫したのは、『どうしてそう思ったのですか?』と質問して、本音の部分を意識的に聞くよう心がけました」(杉岡さん)

GCカタパルトでは上司への相談はタブー。杉岡さんは、周囲から言われた「上司はあなたのサービスの顧客ですか?」とのフレーズが記憶に残っている。