これまでの「家電」にとらわれない、未来の「カデン」をカタチにしたい――。そんな思いを抱いて、新しい顧客体験や社会課題の解決につながる商品開発に取り組んでいるのが、パナソニック アプライアンス社の、新規事業創出プロジェクト「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャーカタパルト=GCカタパルト)」だ。2016年の立ち上げ以来、枠にとらわれない発想で、消費者ニーズをくみ取った新しい「カデン」を生み出してきた実績を持つ。
GCカタパルトがユニークなのは、熱意を持った社員が社内ビジネスコンテストで夢やビジネスプランを披露したのち、事業化をめざすことが決まると、リーダーが部門を超えて仲間を集め、プロジェクト化していくところだ。しかも、参画するメンバーは通常業務と並行して新規事業の創出を推し進めるなど、従来の「モノづくり」の取り組み方とは一線を画す。
今回J-CASTニュースでは、現在事業化をめざして力を注ぐプロジェクトのひとつ、スポーツ動画の編集・配信サービス「Spodit(スポディット)」の主要メンバー4人に話を聞いた。なんと、プロジェクトリーダーをつとめる入社5年目の岩山雄大さんは、ふだんは経理を担当しているという。イノベーションの芽は、人の情熱の中にある――。
リーダーの信念を醸成した北京での「原体験」
「誰でも参加できる社内のビジネスコンテストへの応募は2020年5月ごろ。最初にエントリーシートを提出するのですが、このときは数日で書き上げたことを覚えています。いまは動画の編集・配信サービスとしてカタチを変えましたが、当初のプランは、一言でいえば、プロスポーツをVRで楽しむ、というものでした。私は以前から、そんなサービスがあったら面白いだろう、自分でもほしいなと考えていて。同僚にもよく話していました。すると、思いがけず書類選考を通過して、まさか自分がリーダーになるとは思っていませんでした」
プロジェクトリーダーの岩山さんはGCカタパルトへの参加のきっかけについて、こう振り返る。もっとも、青春をサッカーに捧げていた岩山さんにはもともと、スポーツビジネスに関わりたい、という強い思いがあった。
気持ちを高めたのは、大学時代。中国・北京に留学した際、日本で行われているブラインドサッカー(視覚障害者サッカー)を用いた企業研修を現地法人などに提案し、採用されて得た対価は寄付する――。このようなソーシャルビジネスに、縁あって知り合った会社員と一緒に取り組んだ「原体験」がある。以来、岩山さんは「スポーツはプレーしたり応援したりする楽しみ方だけではない。スポーツを通して社会に役立つことがたくさんある」という思いを深めた。その情熱は、岩山さんがGCカタパルトへ挑戦した下地となっている。
岩山さんは、経理業務とGCカタパルトの「二足の草鞋」の難しさに、時間やタスク管理をあげる。
GCカタパルトでは書類選考を通ると、3週間後には幹部の前でビジネスプランのプレゼンテーションがある。だが、経理畑の岩山さんは、プレゼン用の資料をほとんどつくった経験がない。そこで、声をかけたのが2年後輩の川合悠加さん(経営企画)。川合さんとは社内で席が近く、彼女もスポーツ好き。また、学生時代はビジネスコンテストへの参加経験が豊富で、力になってくれると踏んだのだ。川合さんはビジネスプランのベースをまとめるところで手腕を発揮した。
「岩山さんの思いをビジネスとしてカタチにするうえでは、そもそもニーズがあるかどうかがポイントで、その時点ではわかりませんでした。プレゼンでは、たとえ一人でも『欲しい人がいる』と根拠を持って伝えなくてはなりません。そこで、SNSを利用していろんな人に声をかけて意見をもらったり、アンケート機能を使ったりして調査を重ねました。そうした調査結果を盛り込んで挑んだプレゼンは、粗削りだったと思うのですが、着目したニーズがとらえられている点が評価され、その後の自信につながりました」(川合さん)
川合さんは、限られた時間での資料作成を行い、プレゼン通過の立役者となった。