たびたび浮上しては消えていく「日韓海底トンネル」の話題が、また韓国メディアに登場した。きっかけになったのは、韓国最大野党「国民の力」トップの金鍾仁(キム・ジョンイン)非常対策委員長の発言だ。
韓国南部の釜山では、玄関口にあたる金海国際空港が手狭になっている。今の場所で拡張する案が事実上白紙になったため、釜山沖の加徳(カドク)島に新空港を建設すべきかが議論になっている。海底トンネル構想は、金氏が加徳島案を主張する中で出た。こういった構想は、採算の見通しが立たないとして過去に幾度となくフェードアウトしてきたという経緯がある。それでも構想が浮上した背景として、2021年4月7日に予定されている釜山市長補選に向けた「空公約」だという指摘も出ている。
「日本に比べてはるかに少ない財政負担で...」
朝鮮日報によると、金氏は2月1日に釜山市内で行われた党会合で、「加徳島新空港を積極的に支持する」と表明。「ニュー釜山ビジョンプロジェクト」なる構想を披露し、2030年の万博誘致などを通じて
「釜山を世界最高水準の物流都市に生まれ変わらせる」
「新都市港湾機能を補完するために海路、空路を開き、釜山を名実共に国際物流都市に成長させる」
などと主張した。その中で、「釜山・加徳島と日本の九州をつなぐ日韓海底トンネルも積極的に検討する」とも話し、
「研究によると、日本に比べてはるかに少ない財政負担で、生産付加効果54兆5000億ウォン(約5兆1000億円)、雇用誘発効果45万人に達する巨大な経済的効果が期待される」
などと説明した。
与党に出遅れ、トンネル案で公約を「盛った」?
与党の「共に民主党」は、加徳島案に向けた法案処理を21年2月に開かれる臨時国会で進めることをすでに表明している。出遅れた形の「国民の力」としては、後追いで加徳島案に推進するだけでなく、トンネル案を唱えることで釜山市民へのアピールを狙ったとみられている。それだけに、通信社の「ニュース1」によると、「共に民主党」からは、トンネル構想が「空公約」だという批判が相次いでいる。
「共に民主党」から釜山市長補選に立候補を予定している朴仁映(パク・イニョン)氏は、海底トンネルが「物流システムの変化をもたらし、北東アジアの物流中心都市を目指す釜山港の将来が不透明になる可能性がある」と主張。日本政府が建設費用の全額を負担することを前提に、「日韓関係が正常化された際のいくつかの協力の方法のひとつとして検討が可能な事案だ」などとして、優先順位はきわめて低いと考えているようだ。
さらに、ハンギョレによると、「共に民主党」の崔仁昊(チェ・インホ)首席スポークスマンは、海底トンネルは「日本側の方が利益が大きい」と批判。
「日本の膨張的外交政策と大陸進出の野心に利用される可能性がある」
「釜山が日本の九州経済圏に編入されると、釜山が単なる経由地化される」
などと主張した。
日韓海底トンネルをめぐっては、韓国交通研究院の11年の試算では、建設に10年、92兆ウォン(8兆6000億円)かかるとされている。この試算では、2050年には年間604万人が利用するとみているが、それでも得られる収益は採算ラインの半分以下。現時点では実現可能性がきわめて低いのが実情だ。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)