コスプレ活動が制限されてしまうのではないか――
そんな心配の声がコスプレイヤーたちから相次いでいる。政府がアニメやマンガのキャラクターに扮する「コスプレ」についてルール整備に乗り出したという、共同通信の報道を受けての反応だ。
J-CASTニュースが2021年1月26日、クールジャパン戦略を推進する内閣府知的財産戦略推進事務局に取材したところ、ルール化や法改正などを念頭に検討しているわけではなく、「コスプレイヤーの皆さんが安心してコスプレを楽しむことができる環境」に向けて必要な検討を行いたいという。
内閣府担当者は「タイトルを見て驚いた」
コスプレイヤーたちを動揺させた記事は、共同通信が21年1月23日に配信した「コスプレ著作権ルール化へ 政府、海外展開を後押し」だ。記事では、政府がコスプレの著作権トラブルを防ぐためのルール整備に乗り出したとしたうえで、
「コスプレが非営利目的なら著作権法に抵触しないが、写真をインスタグラムなど会員制交流サイト(SNS)に投稿したり、イベントで報酬を得たりすれば、著作権侵害に当たる可能性が出てくる」
などと伝えていた。
この記事を受けて、コスプレイヤーたちの間では、報じられた「ルール化」によって、現在行われているようなコスプレ活動が制限されてしまうのではないかと、心配する声があがっている。
そこでJ-CASTニュースは、内閣府知的財産戦略推進事務局の担当者にテレビ電話で取材を行った。
共同通信の報道について、担当者は「タイトルを見て驚いた」と指摘。そのうえで、「コスプレを楽しむことができる環境」を作るためにファクトファインディングをしている状況だと話す。
「コスプレと著作権は現状、大きな問題にはなっていません。しかし潜在的には大きな問題になりうる部分が多い分野です。ポップカルチャーの一つとして『コスプレ」を盛り上げていくためには、過度にグレーな部分はある程度整理し、安心してコスプレに参加できる環境が必要です。
コスプレイヤーの方だけでなく、著作権者の方々の経済的利益やブランド価値にも不利益が生じない形で、コスプレ文化が広がっていけるような環境も必要です。そのために、何が必要かについて課題を整理しております」
なぜ法的な課題整理が必要なのか
クールジャパン戦略の一環としても注目される「コスプレ」。有名コスプレイヤーのえなこさんもクールジャパン・アンバサダーに任命されている。
えなこさんを任命したねらいはどのようなものだったのだろうか。内閣府の担当者はコスプレもポップカルチャーの一つとして人気を集めていると語る。
「コスプレは人気のあるポップカルチャーの一つとみています。『世界コスプレサミット』や『コミックマーケット』のコスプレ参加者数が増えてきています。いろんな国の人々が日本のコスプレイベントに訪れるほか、世界各国でコスプレイベントが開催されている実情を踏まえ、そのポテンシャルに注目しています。
えなこさんを起用した目的としましては1つ目に、強い発信力を生かしてクールジャパンを発信してもらいたいという狙いがあります。2つ目に、コスプレの現状やコスプレイヤーの方々が何を考えているのか知るために、インターフェイスとして活躍してほしいという側面もあります。
そして、えなこさん自身、コスプレをする上で著作権を意識して活動されており、制度に則ってみんなが安心できるように啓発活動を行ってもらいたいという狙いがあります」
しかし、これまで「グレー」なものとして踏み込まれてこなかったコスプレと著作権。なぜ今、法的な課題の整理が必要だと検討し始めたのだろうか。担当者は、あくまで法を「整備」するわけではなく、課題の整理を行うと強調したうえでこう述べる。
「元々あるキャラクターに扮して楽しむ以上、著作権との関係は切り離せないものですが、著作物を持つ業界のスタンスも不明です。今後コスプレイヤー人口が増えていくにつれ、意図せずともどこかで一線を越えてしまう危うさも孕んでいます。関係者が安心してコスプレを楽しむことができるようにするためには、課題を抽出し、整理して、何かやるべきことがあれば取り組んでいく必要があります」
また海外に日本の魅力を発信することを目的としたクールジャパンの取組ではあるが、日本の魅力を発信するためには、もちろん日本国内で文化が育つ必要がある。そういった背景から、『コスプレ文化』を国内で魅力的に磨き上げていくために、安心して活動を行える環境が必要なのだという見方を示した。
コスプレ活動を委縮させることは望んでいない
それでは内閣府の担当者は現在、「コスプレを安心して楽しむことができる環境」についてどのようなビジョンを抱いているのだろうか。
「コスプレイヤーと著作権者が安心できる状況はどういう状況であるかは、現状をよく掘り下げないと分かりません。最終的に目指すのは、不安定でグレーに見える状況が整理されて、携わる人々が安心できる環境です。ルール化や法改正など、何かを前提に検討しているのではありません。皆が納得できる環境が作られることを目指していきます」
担当者は、コスプレ活動を委縮させることは望んでいないと強調する。そして、コスプレイヤーや著作権者が望む環境を明らかにするために、ヒアリングを行っているとのことだった。
「この分野は、著作権者も大事なプレイヤーなので、アニメ、漫画、ゲーム業界などできるだけいろんな方面の著作物を持っている業界へのヒアリングが中心となっています。
またコスプレイヤー側の話についてはえなこさん、『著作権』という分野については弁護士の方にもお話を聞いていきます。また一般のコスプレイヤーの方々一人一人に話を聞くことは現実的には難しいので、弁護士の方々にはどういったトラブルや、問い合わせが寄せられているのかという点も聞いていきます」
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)
【#知的財産】
— 内閣府 (@cao_japan) December 10, 2020
昨日、#えなこ さん(コスプレイヤー)の #クールジャパン・アンバサダー 任命式を開催しました。任命状は井上大臣が視察した佐賀県の #名尾和紙 です。えなこさんには日本の魅力や文化を世界に発信していただくことを期待しています。https://t.co/1Wc9ELrVpo pic.twitter.com/eiuXKPRCqK