小売大手・イオン(千葉市)が打ち出した「禁煙施策」が議論を呼んでいる。
2021年1月25日、グループ従業員約45万人を対象に就業時間内、敷地内での「禁煙」を実施するとニュースリリースで発表。そこには、喫煙後に衣服などから発生するたばこ成分を周囲の人が吸い込む「三次喫煙」を防ぐため、就業時間45分前の喫煙もやめさせるといった趣旨の説明もあり、ツイッター上では「出勤前くらいは従業員の自由にさせて」「行動を制限する権利はあるのか」と異論が噴出した。
「三次喫煙防止」について、イオン側はJ-CASTニュースの取材に対し「これからルール作りを決めていく段階」だとしている。だが、仮に企業が従業員の就業時間外に「禁煙」を強いた場合、法的な問題は生じないのか。弁護士に見解を聞いた。
テレワーク従業員も「就業時間内喫煙」の対象に
イオンが21年1月25日に発表したニュースリリースの内容は、国内115社の全事業所、グループ従業員約45万人を対象にした「就業時間内禁煙」と「敷地内禁煙」を21年3月までに始めるというものだった。J-CASTニュースが1月26日、イオンの広報担当者に取材すると「就業時間内禁煙」はテレワークの従業員も対象で、休憩時間中は喫煙可能だという。
イオンは18年に「禁煙外来補助制度」を導入し、19年7月には千葉市美浜区にある本社を敷地内全面禁煙とするなど、社内の禁煙施策に力を入れていた。今回の施策も「従業員と家族の健康」をサポートする目的があるといい、オンラインでの禁煙治療など従業員への禁煙支援も行っていくという。
喫煙者の従業員にとっては厳しいものになったであろう、今回の発表。特に議論を呼んでいるのは「お客さま及び従業員間での望まない受動喫煙と三次喫煙を防止する」という説明だ。イオンは「三次喫煙」について「喫煙後約45分間は喫煙者の息や髪の毛、衣類などからたばこ成分が出続けて周りの人に影響を及ぼすこと」と定義。広報担当者によると、これには従業員に「就業45分前からの禁煙」を求める意味合いがあるとした。
イオンの広報担当者によれば「就業時間内禁煙」と「敷地内禁煙」に関しては「就業規則に記載する予定」だとした一方で、「三次喫煙(就業45分前からの禁煙)」に関しては、就業規則に記載するかどうかなどを含めて「これからルール作りを決めていく段階」だとした。
「三次喫煙の悪影響の重大性からすれば...」
イオンの「45分前禁煙」をめぐっては、ツイッター上で「イオンの英断に拍手したい」「接客業でタバコの匂いはちょっとあれだから助かる」「子供いる身、タバコを吸わない身からしたらフレッシュな環境で買い物出来るっていいと思う」と肯定的に捉える声が。その一方で「出勤前くらいは従業員の自由にさせてやれよ」「プライベートまで斬り込まれるって切ない」と喫煙者の従業員に同情する意見や、「出勤45分前の行動を制限する権利はあるのか?」といった疑問の声も聞かれている。
企業が従業員に対し、就業時間外での「禁煙」を求めることに法的な問題は生じないのか。J-CASTニュースが1月26日、弁護士法人天音総合法律事務所の正木絢生代表弁護士に取材すると、「一般に就業時間外に使用者の権限が及ぶのは限定的な場合と考えられている」としつつ、以下のような見解を示した。
「喫煙者の呼気に含まれる総揮発性有機化合物の濃度が喫煙前の状態に戻るまで喫煙後45分かかるとの産業医科大学のデータ等があり、三次喫煙の悪影響の重大性からすれば就業前の禁煙を求めることにも一定の必要性・合理性があるといえそうです。そのため、就業45分前であれば喫煙禁止を求めることも適切な使用者の権限行使と判断される可能性はあります」
ただ、仮にこうした規定が設けられ、従業員が精神的苦痛を受けた場合には「従業員の喫煙の自由を侵害するものとして損害賠償請求を請求できるか等が問題とはなり得ます」と説明。その上で、
「近年は喫煙の有害性や受動喫煙による健康被害の拡大が叫ばれており、禁煙を求めることについても合理性が認められると考えられております。このような状況の下では、従業員が喫煙機会を失い精神的苦痛を受けたとしても使用者が賠償責任を負うのは、使用者の権限が濫用されたような限定的な場合ではないかと考えられます」