1990年代に都市圏の民放ラジオ局で導入が進んだAMステレオ放送が風前の灯火だ。音楽番組やスポーツ中継で臨場感が増すことが売りだったが、対応受信機が割高で普及が進まなかった。さらに、ラジコ(radiko)などAM放送以外でもステレオ放送が聴けるようになって意義が薄れ、2000年代~10年代にはモノラル放送に戻す局が続出していた。
数局が細々とAMステレオを続けていたが、21年1月11日にCBCラジオ(名古屋市)が撤退。国内メーカーがAMステレオ対応の送信機を受注しなくなったのが原因だ。他局でわずかに残っているAMステレオも、送信設備の寿命とともに歴史的役割を終えることになりそうだ。
最初に撤退したKBCラジオ「リスナーのメリットが少ないと判断しました」
AMステレオは1992年3月から4月にかけて東京、名古屋、大阪、福岡の民放9局で開始。当時のAM局は音楽番組中心のFM局に押されていたこともあって、ステレオ化を「第2の開局」などと起死回生策のひとつとして位置づけていた。ただ、ステレオ化にはスタジオや送信所の整備のために数億~十数億円の投資が必要で、ローカル局には負担が重かった。そのため、最盛期でも導入したのは都市圏を中心に民放16局にとどまった。さらに、NHKはすでにFMでラジオのステレオ放送が可能で、コストをかけてAMをステレオ化するメリットがないため、導入を見送った。こういった経緯でAMステレオ対応局が増えず、リスナーも増えず、対応ラジオの価格も下がらないという悪循環に陥った。
初めて撤退する局が出たのは、開始から約15年後の2007年4月。九州朝日放送(KBC、福岡市)だ。当時のKBC担当者の弁は「リスナーのメリットが少ないと判断しました」(07年6月28日、朝日新聞)。放送機器の更新時期を迎えたことがきっかけだったといい、KBC以外の放送局も撤退が相次いだ。メンテナンスの問題を挙げたのは11年3月に撤退したRCCラジオ(広島市)。ウェブサイトで経緯を
「ステレオ放送に必要な装置の生産が終了しており、メンテナンスの保証が出来なくなりました」
と説明している。
ステレオで聞けるradikoとワイドFMも逆風に
業界をとりまく環境の変化も逆風になった。10年にradikoのサービスが首都圏や近畿圏で始まり、14年には、AM局が90.1MHz(メガヘルツ)より周波数が高いFM波でAMと同じ番組を流す「ワイドFM」(FM補完放送)が、北日本放送(富山市)と南海放送(松山市)の2局を皮切りにスタート。radiko、ワイドFMともに大半の局がステレオで番組を流しており、全国展開も進んだ。そのため、「AMでステレオ放送」を聴くことの意義は限りなく小さくなっていた。
12年5月の東海ラジオ(名古屋市)を最後に、いったんは撤退の流れは止まったかに見えたが、1992年4月からAMステレオを続けてきたCBCラジオ(名古屋市)が2021年1月11日早朝の番組からAMをモノラル放送に切り替えた。
CBCも送信機を新調したことが契機になった。J-CASTニュースの1月20日の取材に対し、CBCラジオの編成部は以下のように説明した。AMステレオ対応の送信機を発注しようと国内メーカー2社に問い合わせたが、2社とも製造を断った。やむなくモノラルで送信機を更新することになったという。
CBCの撤退で、国内でAMステレオを継続しているのはニッポン放送(東京都千代田区)、ラジオ大阪(大阪市港区)、和歌山放送(和歌山市)の3局を残すのみとなった。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)