大相撲初場所の取組で、互いに頭を激しくぶつけたあとに一人がフラフラとなり、その後に間をとって取り直した一番があった。一部スポーツ紙は、「脳震とうを起こしたとみられ...」と報じた。
日本相撲協会の審判部では危険性を指摘する声を受けて初場所後に対応を協議する、と伝えられているが、どのような危険性があるのか。スポーツドクターに話を聞いた。
「病院で検査を受け、体調に問題はなかった」と報道
東京・両国国技館で2021年1月19日に行われた10日目の取組は、湘南乃海と朝玉勢双方にとって、勝ち越しがかかった大事な一戦だった。立ち合いでは、両力士が頭から激しくぶつかり合い、パンという音が響くと、湘南乃海は、土俵上でひっくり返った。立ち合いのやり直しが告げられて、起き上がろうとするが、左ひざが落ちてしまう。また立とうとするが、今度は尻もちをついてしまう。
その後、立ち上がったものの、よろけてしまい、両力士は、いったん土俵を降りた。続いて、5人の審判が土俵に上がって1分ほど協議し、湘南乃海も続ける意思を見せたとして、取り直しになった。湘南乃海は、はたき込みで朝玉勢を下して勝ち越しを決めた。
日刊スポーツの19日付ウェブ版記事によると、審判部では、取組の危険性が指摘され、今後は取り直しをしないことを「ひとまず部内の一部」で申し合わせたという。初場所後に新たなルール作りに取り組む方針だとも伝えている。湘南乃海は、病院で検査を受け、体調に問題はなかったとしている。
一方で、トレーナーらスポーツの専門家からは、審判だけの判断で取り直しをしたことについて、ツイッター上で疑問の声が次々に出た。
「検査で問題なくても、段階的な復帰が必要」
サッカーやラグビーなど接触の多いコンタクトスポーツでは、このような症状が出れば、ガイドラインに沿った対応をするはずというものだ。例えば、日本サッカー協会のサイトでは、脳震とうについて、「重症の場合は、生命に危険を及ぼす」として、本人の意思だけでプレーを続行させず、すみやかな専門医の診断が必要だとしている。
スポーツドクターの芦屋中央病院(福岡県)の迫田真輔医師は1月20日、J-CASTニュースの取材に対し、湘南乃海のような症状が見られたら、「まず脳震とうを疑うべきだ」と話した。
近年、ラグビーなどのコンタクトスポーツでは頭部外傷後に一時的な意識消失などの症状が発生した場合、SCATと呼ばれる医学分析手法を使用し脳震とうの可能性を判断するそうだ。
「スポーツ現場のメディカルスタッフ、場合によってはスポーツ指導者が脳震とうの判断を行い、本人の意思に関わらず競技をストップさせる必要があります」
「脳震とうはCTやMRIなどの検査で『異常なし』と判断されます。しかし検査で異常がないからと言って脳震とうから速やかに復帰させることは重大な後遺症のリスクが高まります。従って競技に復帰するためには段階的に負荷を上げることが重要であるとされています。当院ではSCATを参考にして作成した復帰プログラムを使用しています」
このプログラムでは、無症状であることが負荷を上げる条件になっており、コンタクトを含む練習に復帰するには、少なくとも4日を経過してからになっている。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)