岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
フェンスと兵士に囲まれたワシントンに怒る市民

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事件で亡くなった警察官の写真

   議事堂前(西側)の広場の一角には、今回の事件で亡くなったブライアン・D・シックニック巡査(42)の何枚もの写真飾られ、数多くの星条旗と花が添えられていた。

   その場にいた50代くらいの女性は、「あんな美しい建物なのに。ひどいことを。何の敬意も見られない。あの像がまさに語っているわ」と言って、目の前の「平和記念碑(The Peace Monument)」の頂上を指さした。

   この碑は、南北戦争における海軍の死傷者を悼むもので、頂上に立つ「悲しみ(Grief)という名の女性が顔を覆い、「歴史(History)という名の女性の肩を借りて、泣いている。

   そこから数メートル離れた場所で、20、30代くらいの男女6人が座り込み、大きな色紙にマジックで「D.C.=OUR HOME(ワシントンは私たちの故郷)」「SAY NO TO AMERICAN FASCISM(アメリカのファシズムにノーと声をあげよ)」などと書いていた。

   夫の仕事で何年か日本で暮らした経験があるという女性マルギトは、夫と一緒にその場にいた。

   彼女は今回の事件に触れ、「議事堂であんなことが起きるなんて。何かせずにいられなかったの。議事堂のすぐそばについ先日まで美しく飾られたクリスマスツリーがあって、市民はみんな自由にそこで写真を撮ったりできたのよ」と、議事堂とクリスマスツリーを背景に夫と一緒に写っている写真を携帯で私に見せた。

   犬を連れて歩いていた男性が、議事堂前の柵に貼られた一枚の白い紙の前で足を止め、写真を撮り始めた。

   そこには「I♡DEMOCRACY」(注=♡はLOVEの意味のハートマーク)と書かれていた。

   皮肉にもあの日、トランプ支持者たちもよく口にしていた言葉が、「Democracy(民主主義)」だった。

   次回は1月18日に、バイデン次期大統領就任式(1月20日)直前の今も、「反トランプ」デモを続ける人たちを、ANTIFAのメンバーも含め、紹介する。

(次回に続く)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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