高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 
NHK「地上波」整理に言及なし 構造改革掲げても「不十分な施策」

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   NHK経営計画(2021-2023年度)が、13日NHK経営委員会で議決・公表された。

   3カ年の中期経営計画だが、わずか4ページなので、NHKのサイトで読んだらいい。

  • NHK放送センター(東京都渋谷区)
    NHK放送センター(東京都渋谷区)
  • NHK放送センター(東京都渋谷区)

受信料値下げはせいぜい1割程度

   最初のページで、「正確、公平公正で、豊かな放送・サービスをいつでもどこでも最適な媒体を通じてお届けし続ける、『新しいNHKらしさの追求』を進めます」と書かれ、「既存業務を抜本的に見直し、放送波を整理・削減するとともに550億円規模の支出削減を行い、効率的で持続可能な組織に変わります」とされ、これを「スリムで強靱な『新しいNHK』」としている。

   そのための構造改革として、3ページに、(1)保有するメディアの整理・削減、(2)インターネット活用業務、(3)「受信料の価値を最大化」するためのマネジメント施策という3つの柱が立っている。

   計数面では、最後の4ページに、2020年度の事業収入7204億円は、2021年度に6900億円に減少し、22,23年度はそれぞれ6890億円、6880億円と横ばい、2020年度の事業支出7354億円は、21年度に7130億円、22年度6890億円、23年度6800億円と徐々に減少するとされている。その中で、今回の中期計画の目玉である受信料の2023年度値下げ方針が書かれている。値下げ原資は700億円なので、せいぜい1割程度の値下げだろう。

   コロナショックで受信料収入が低下するというが、コロナによる巣ごもり需要は増加するはずだが、受信料徴収のための訪問ができないので、受信料収入が低下するわけだ。

   こうした環境では、インターネットを通じて収益を考えるのが一般の経営感覚だ。一応、インターネット活用業務という柱を立てているが、収益貢献にはほど遠く、単なるお題目でしかない。

Eテレと文科省ギガスクール構想

   また、保有する経営資源の有効活用を考えてもいいはずだが、放送波の整理は、衛星波1つ、音声波1つにとどまっており、地上波にはまったく言及していない。

   本コラムの読者であれば、筆者が昨年Eテレ周波数の売却で世論を賑わしたことをご存じだろう。筆者は、Eテレの周波数を整理し、文科省が新年度からはじめる「ギガスクール構想」にのっかり、Eテレのコンテンツをインターネットで流し、文科省ギガスクール予算の獲得を含めて収益化することを主張したのだ。これは、今回のNHKの中期計画の3つの柱のうち、(1)と(2)に相当するもので、NHKの構造改革そのものだ。

   同時に、Eテレ周波数を携帯事業者が利用できるようになるので、今後の通信事業の発展やさらなる携帯料金値下げにもつながる、日本全体の構造改革にもなり得るものだ。

   今回のNHK中期経営計画を作った人たちは、文科省ギガスクール構想の動きをまったくわかっていない。これは、文科省の行う最優先一丁目一番地の施策なので、NHKが常に強調する「あまねく伝える」という理念には反するはずない。そもそも経営計画は、社会の動きを読みながら、自社で最適な計画を作るものだが、NHKは自分の世界に閉じこもり、まったく文科省など世の中の動きが見えていないのだろう。

   要するに、(1)保有するメディアの整理・削減、(2)インターネット活用業務を掲げておきながら、それぞれ不十分な施策しか打ち出せず、スリム化も不十分、受信料値下げも不十分となる。

   というわけで、筆者からみたNHK中期経営計画は及第点はつけられない。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。


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