北朝鮮の朝鮮労働党が5年ぶりに開いた党大会で、金正恩委員長が「総書記」を名乗ることが決まった。かつては祖父の金日成氏や父親の金正日氏が名乗り、正日氏の死去後は「永久欠番」に近い性格のものだと考えられてきた肩書きだ。これを正恩氏が名乗ることで、さらに神格化が進むとみられる。
一方、実妹の金与正党第1副部長は、政治局員候補から外れた。ただ、韓国メディアからは、今回の人事のみをもって「地位が弱体化したと判断するのは時期尚早だとする指摘が多い」との指摘も出ている。党の特定の役職に縛られず、金日成主席の直系血族にあたる「白頭山血統」の一員として、様々な問題への関与を続けるのではないかとの見方だ。
「金正日同志をわが党の永遠の総書記に」と言っていたのに
北朝鮮の国営メディアが2021年1月11日に報じたところによると、党大会日程の6日目にあたる1月10日、正恩氏を総書記に推戴するとの決定書を全会一致で採択した。国営メディアでは、決定について
「金日成・金正日主義党の強化、発展とチュチェの革命偉業の新たな勝利的前進を成し遂げようとする全ての代表者と全党の党員、全国の人民と人民軍将兵の一致した意思と願いを反映、金正恩同志を朝鮮労働党の総書記に高く推戴することに関する決定」
という長い「枕詞」をつけて報じている。
正恩氏は正日氏の死去から約4か月後の12年4月、「偉大な金正日同志をわが党の永遠の総書記に頂いてチュチェ革命偉業を輝かしく完成しよう」と題した談話を発表している。「総書記」という肩書きに「永久欠番」に近い意味づけを与えたとも言えるが、それから9年近くが経過。今度は自らが「総書記」を名乗ることで、「白頭山血統」の一員としての権威を強調した形だ。
一方の与正氏は、これまで務めてきた「政治局員」候補の名簿に名前がなく、それよりも格下の「党中央委員会委員」の名簿に名前を連ねたのみだった。与正氏は18年の南北首脳会談では至近距離で正恩氏の補助をする姿が大きく報じられた一方で、19年から20年にかけて、与正氏名義で米国や韓国を非難する声明を出す機会も多く、硬軟両面で注目されてきた。
韓国の情報機関にあたる国家情報院は20年11月に行った国会への報告で、与正氏について「(今回行われている)第8回党大会で地位に見合う職責を与えられる可能性に注目している」と、昇進の可能性を指摘していたが、それが覆された。
与正氏は「リベロ」の役割?
ただ、今回の人事で「失脚」したとは言い切れない。139人が記載されている「党中央委員会委員」の名簿のうち、与正氏の序列は21番目で、比較的高いからだ。
聯合ニュースは、与正氏が対南政策で十分な成果を出せなかったと正恩氏が評価した可能性があるとの指摘を紹介した上で、
「これまでの自分の公式業務である対南政策の範囲のみにとらわれず、様々な分野で活躍する(サッカーで特定のマークする相手を持たずにゴールを守る一方で、攻撃にも参加する選手の)『リベロ』の役割を果たしてきただけに、今後も職とは別に内外の主要な懸案に積極的に関与し、『白頭山血統』としての地位をアピールする可能性も残っている」
と分析している。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)