「独立戦争でイギリスからアメリカを守ったように、どんな手段を使おうとも、我々にはこの国を取り戻す準備がある」。首都ワシントンで2021年1月5日から数日間、行動を共にした私に、トランプ支持者の何人かがそう語った。
6日、大規模抗議集会で大統領が米議会議事堂までの行進「SAVE AMERICA (アメリカを救え)」を呼びかけたあと、支持者らの一部が議事堂を占拠した。
「硫黄島」や「独立戦争」のシンボル
1月6日には、米連邦議会の上下両院合同会議で選挙人投票の結果を正式に確認する手続きが、行われることになっていた。通常なら形式的に承認されるが、今回はテッド・クルーズ氏(共和党、テキサス州選出)を含む11人の共和党上院議員が、「論争になっている州の選挙人の投票結果に異議を唱える票を投じる意向を明らかにしていた。支持者たちの抗議集会は、この日を狙って開かれた。
前回のこの連載「穏やかな行進の後、あの議事堂占拠事件は起きた」(2021年1月9日公開)では、集会と行進に参加したごく一般的なトランプ支持者像を伝えたかった。
私はこれまでトランプ支持者やその集会を多く取材してきたが、今回の集会でとくに目についたのが、第二次世界大戦末期に日米軍の間で戦われた「硫黄島の戦い」や米独立戦争がらみのシンボルだった。「CIVIL WAR(南北戦争)」と書かれた服を身につけた人たちもいた。
集会では私の前方で、大きな2つのパネルが掲げられていた。1つは、硫黄島で日本軍が必死に守り続けた摺鉢山の頂きに米海兵隊が星条旗を掲げているあの有名な写真で、「They Saved a Country We are saving a Nation Jan.6, 2021」(彼らは国を守った。我々は2021年1月6日、国を守るのだ)と書かれている。
もう1つは、独立戦争を思わせる絵に、「IN 1776, THESE PATRIOTS DID THEIR JOB CONGRESS, SUPREME COURT, IT'S TIME YOU DO YOURS!」(1776年、この愛国者はするべきことをした 議会と最高裁よ、すべきことをする時だ)
「いかなる手段を使っても最後の最後まで闘う」
1月5日夜、ホワイトハウス前の広場で、「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」の毛糸帽を被った40代ほどの男性ライアン(ワシントン州在住)が私にこう語った。
「明日、何が起きるのか、待っているところだ。この国を取り戻すために、立ち上がらなければならないのか。この国は我々のものだ。アメリカ人として憲法で守られた権利を守るために、いかなる手段を使っても最後の最後まで闘う」
6日の大規模抗議集会でも、私の後ろに立っていた男性がこう言った。
「バイデンが大統領になるようなことになったら、国を取り戻す準備はできている。そのために、議会の中に入って、議員を外に引きずり出さなければならないなら、そうする。独立戦争の時にも、僕らはそうしたのだから」
すると、彼の隣にいた青字で「TRUMP」と書かれたピンクの毛糸帽を被った女性が、会話に加わった。
「独立戦争の時、棒でも石でも弾丸でも、何でも武器にしてイギリスと戦ったのよ。あの時できたのだから、今もできるわ。私たちはアメリカ人。神の下の国。神のため、この国のために戦うのよ。大統領選の投票を盗んだ敵が国内であろうと、国外であろうと。それは、憲法で守られた私たちの権利だから」
「そうだ、国内も国外もだ。共産主義と戦う」
「そうなればあなたたちは、連邦軍と戦うことになるのでは?」
「連邦軍の中に我々を阻止しようとする者がいれば、もちろん排除する」
集会にトランプ大統領が登場する前の演説で登壇者が、「我々の祖先は、世界で最も偉大な国の基礎を守るために、時には命を犠牲にして戦ったのだ。アメリカのために闘え!」と呼びかけると、「闘え!(Fight!)」と群衆が大声で連呼した。
「暴力的な手段に訴えることはしない」
その後、トランプ大統領が1時間あまり演説し、「死に物狂いで闘う。死に物狂いで闘わなければ、もう国はない(We fight like hell. And if you don't fight like hell, you're not going to have a country any more.)」と訴えかけた。
支持者たちの反応から、「この人たちはその時が来たら、本当に戦うつもりかもしれない」と私は感じた。
トランプ氏が行進について、「平和的に愛国的に(peacefully and patriotically)」と呼びかけたとおり、議事堂への行進そのものは平和的に行われた。
独立戦争当時のコスチュームで参加した人たち、パンダの着ぐるみに身を包む人、子供を肩車する男性や高齢者、車椅子で行進する人たちもいて、現場にいても殺気だった雰囲気は感じられなかった。
自警団のメンバーの男性が私に話したように、「自分たちは『法と秩序』を重んじる。暴力的な手段に訴えることはしない」と暴力を否定する人も多かった。
ワシントンでは銃携帯の規制が厳しいため、武器を隠し持ってきた人たちもいたが、「自衛のためだ」と「こちらから使うことはない」と強調していた。
少なくとも議事堂に向かった人たちの多くは、支持者のごく一部が議事堂内に乱入するとは、想像もしなかったのではないかと思う。
次回のこの連載では、事件が起きた議事堂での様子を伝える。(次回に続く)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。
一時占拠、乱入事件が起きた米合衆国議会議事堂へ向かって、トランプ支持者たちが行進している様子です。連載の昨日公開された記事の続きは、10日夕方、公開されます。 pic.twitter.com/dR00CwsL5p
— 岡田光世「ニューヨークの魔法」エッセイシリーズ発売中 NY英語も学べます (@OkadaMitsuyo) January 10, 2021