岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 
穏やかな行進の後、あの議事堂占拠事件は起きた

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

「平和的に愛国的に、議事堂へ向かおう」

   翌6日、大規模集会は午前11時に始まる予定だった。私が8時頃、ワシントン記念塔の近くに設置された会場へ向かうと、辺り一体、すでに人で埋め尽くされていた。全米から10時間以上かけて車で、飛行機を乗り継いで、「トランプ大統領支持の思いを伝えたい」「この国の民主主義のために」と、自腹を切ってやってくる。

   午前5、6時に会場に着いた人たちが、「すでに長蛇の列ができていたため、中に入るのを諦めた」と私に言った。

   あちこちで、よじ登った木の上から見ている人たちがいる。

   前に大規模集会で、背が低いために何も見えなかったというボブは、脚立を持ってきていた。一緒に来ていた息子も自分もほとんど使わず、私を含め他の人たちに貸していた。脚立の上から一帯を眺めると皆、人の多さに圧倒され、必ず声を上げる。

   「ガソリン代の足しに」とある男性がお礼に10ドル札を手渡そうとすると、「人のためになるなら、嬉しいんだ。トランプ支援のために使ってくれ」と丁重に断った。

   トランプ大統領の息子たちや、トランプ陣営のルドルフ・ジュリアーニ弁護士などのスピーチのあとでトランプ大統領が登場すると、「USA! USA!」「We want Trump!(トランプがいい!)」「Fight for Trump!(トランプのために闘え!)」の大歓声が沸き起こった。

   トランプ氏が、いかに不正が行われたかを延々と語っていると、私の後ろの女性が、「一体、誰に話してると思ってんのよ。私たちはみんな知ってることよ。寒くて震えてるんだから、さっさと話を切り上げて、議事堂に行進しよう!」と痺れを切らして叫んだ。

   ついにトランプ大統領が、「平和的に愛国的に、声を上げ、ペンシルベニア・アヴェニューを議事堂へ向かおう」「God bless you. God bless America」と締めくくると、支持者集会のテーマソングとなった「Y.M.C.A.」の音楽とともに、支持者らが米国旗や「TRUMP 2020」の大旗を手に、穏やかに行進し始めた。

   そしてこのあと、彼らが辿り着いた議事堂で、前代未聞のあの占拠・乱入事件が起きたのだった。その現場の様子を連日、伝える。(次回に続く)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

1 2
姉妹サイト